デジタル変革に向けたIT戦略策定のポイント

デジタル変革に向けたIT戦略策定のポイント

本稿では、企業におけるデジタル変革を効果的に推進するためのIT戦略策定のポイントについて解説します。

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KPMGの2018年度CIO調査では、IT投資が過去20年で最大となる一方で、これまで伸びていたデジタル戦略の策定状況が一転して減速するなど、デジタル変革を推進することの難しさが垣間見える結果でした。
AI(人工知能)やデータアナリティクスなどの新たな技術は、導入アプローチを含めて従来のITテクノロジーとは異なる点が多く人材の育成・調達が難しいことに加えて、企業やITベンダーの人材が既存システムの維持管理に多くの時間を割かれており、必要な人材や投資をデジタル変革のために投入できないことが主な阻害要因と考えられます。
すなわち、デジタル変革の推進には新たなテクノロジーに対応する人材の確保と、既存システムにかかるコストや人材への負担の低減を目指した全社的なIT戦略が重要となります。
本稿では、企業におけるデジタル変革を効果的に推進するためのIT戦略策定のポイントについて解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • KPMG の2018年度CIO調査では、多くのITリーダーがデジタルの活用がビジネス戦略の推進に効果的と考えており、販売や新規顧客獲得といったフロントエンドへの活用を重視しているものの、ビジネス目標の達成に非常に効果的とする回答は少数であった。
  • 経済産業省のDXレポートでは、長期にわたり個別最適に開発と改修を続けてきた既存システムが複雑化・ブラックボックス化しており、これを使い続けることで維持管理のためのコストや人材の負担が増大しデジタル変革に必要なリソースが投入できないという問題を指摘している。
  • 部分的なデジタルテクノロジーの導入やシステム改修ではなく、デジタル時代にふさわしいアーキテクチャの再構築とクラウドなどの優れた製品やサービスの活用を、業務改革と同時に進める必要がある。変化に対し即応性が高いシステムと高度なスキルを備えた人材の確保、全社的なデジタルリテラシーの底上げがデジタル変革に向けたIT戦略策定のポイントとなる。

I. デジタル変革に各社苦戦の様相

1. 全社的なデジタル戦略があるとする回答が減少

2015年から2017年までのCIO調査※1では、全社的なデジタル戦略を掲げる組織が3年連続で増加傾向にありましたが、2018年は減少に転じ、前年の41%に対し32%にとどまりました(図表1参照)。

図表1 過去4年間(2015-18年)のデジタル戦略策定状況

自社組織にはデジタル化における明確なビジョンと戦略がありますか?

図表1 過去4年間(2015-18年)のデジタル戦略策定状況

出典:Harvey Nash/KPMG 2018年度CIO調査

一方で、事業部門ごとに明確なデジタル戦略があるとの回答は増加しました。これはフロントのセールス・マーケティング・顧客体験といった業務についてはデジタル戦略を策定したうえで改革が進んでいるが、ミドル・バックオフィス業務については改革が進んでいない等、デジタル化の推進状況に濃淡が生まれていることが考えられます。

2. デジタル変革の必要性は理解しているが進められない

KPMGの2018年度CIO調査の中で、従来型ITとデジタルのゴールについて企業のITリーダーに尋ねたところ、デジタル変革が業界にもたらす効果とその重要性は十分に理解しつつも、実際のデジタル変革への取組みについては消極的な回答が目立ちました。
多くのITリーダーにとって、「コアビジネスシステムのデジタル化」と「包括的なデジタルビジョンに基づく意思決定」は難しい課題のようです。
また、ITリーダーの4分の3以上はデジタルの活用がビジネス戦略の推進に効果的と答えており、デジタルを活用した顧客満足度の向上や新規顧客の獲得といった点を重視しているものの、ビジネス目標の達成に向け、デジタルの活用が非常に効果的とする回答は10人中3人にも満たないという結果でした。
一方、2018年9月に経済産業省から公表されたDXレポート※2では、長期にわたり個別最適で開発・改修を重ねてきた既存システムの複雑化・ブラックボックス化が招く弊害が指摘されています。
既存システムを継続して使用し続けた場合、AIやアナリティクスに必要なデータは、今後さらに複雑化したシステムから取得することとなり、利用可能な状態に加工するための多大な工数やコストが必要となります。
それに加えて、デジタル変革の担い手として期待されるIT部門の人材が複雑化した既存システムの維持管理に膨大な工数を割かれ続けることからも、既存システムの抜本的な見直しが急務であると指摘しています。

3. 今こそデジタル変革を推進する好機

先に挙げたDXレポートや、各種メディアにおいても、「2025年の崖」の克服が大きく取り上げられています(2025年には基幹システムを21年以上使い続ける企業が全体の6割に達し、IT予算の9割以上を保守運用に使わざるを得ない状況に陥るため、最大で年12兆円の経済損失が生じる恐れがあると報告されています)。
このような状況から国や市場が大々的に企業や組織のITシステムの改革を後押しするといった機運が高まっており、ITリーダーにとってはデジタル変革に向けた社内予算の獲得やリソース協力を得る好機と捉え、一刻も早く変革に着手すべきと考えます。
この好機を活かして他社に先んじて変革を進めて行きたいが、足元にある課題に対してどのように対応したらよいのか、解決策にはどのようなものがあるのか、次章以降でデジタル変革に向けてKPMGが考える解決すべき主要課題と、それらを効果的に解決に導くIT戦略策定のポイントを解説していきます。
 

※1Harvey Nash/KPMG CIO調査は、世界最大規模の回答者数を誇るITリーダーを対象とした調査。
※2DXレポートとは、経済産業省が我が国企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現していく上でのITシステムに関する現状の課題の整理とその対応策の検討を行い、『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』として取りまとめ、2018年9月に公表した報告書。

II. デジタル変革の足元にある課題

KPMGの2018年度CIO調査やDXレポートからの示唆だけでなく、KPMGがこれまでに行ったデジタル変革に向けた戦略や構想・企画等の業務支援の経験から、次の3つがデジタル変革を阻む主な課題であると考えます。

1. デジタル化に必要なデータが揃わない

長期間にわたり開発・改修を重ねてきている複数の社内システムで利用されている多種多様なデータを、定常的に最新の状態に保全できている企業は少ないのが現状です。デジタル変革に向けて新業務プロセスに基づくソリューションやツールのPoC(実機検証)を実施しようとする段階になると、データを蓄積する仕組みはあるものの価値のあるものに変換できていない、その結果、実ビジネスへの有効性検証に十分なデータが揃わないため、単なるソリューションやツールの機能検証に終わってしまうといった問題が発生します。デジタル技術で活用するデータを適宜取り出せる状態にシステムを整備するにしても、長期間にわたって運用してきた既存システムに係るデータの構成情報を紐解く書類の不整備や、担当者の退職により情報収集が困難な状況に陥るケースも多く見受けられます。

2. デジタル化の対応にリソースが割けない

本来デジタル変革の推進に最も活躍が望まれる情報システム部門の多くは、既存システムに係る社内からの各種問合せや、法規制の変更に係る改修対応といった普段の運用・保守においても、担当要員が不足しがちな状態が続いており、日々の運営の遣り繰りを行っている様子が垣間見えます。
また、不定期に発生するシステム障害対応や保守切れによるシステムの入替対応など、維持費だけでも多くの予算を確保しなければならない状況の中で、外部リソースの支援を受けながら、優先順位をつけて改善・改革の個別プロジェクトを推進していくなど、足元にある既存システムにリソースをとられ、デジタル変革にリソースを割く余力がない状況になっていると考えます。

3. デジタルテクノロジーの知見を有した人材が足りない

AIやアナリティクスといったデジタル化時代に積極的な活用が求めらる技術要素は、これまで企業の情報システム部門で数多くのシステムの企画・開発や運用保守を通して培われた技術の応用展開では対応しきれないと考えます。
人材の育成や外部有識者の獲得など、変革を推進する体制を整備するにも内外ともに人材が不足しています。各企業が同様の課題を抱えている中で、外部人材も豊富にいるわけではありません。特に、ベンダー側の立場でデジタルテクノロジーに係ってきた人材ではなく、ユーザー側の立場で係ってきた人材、さらには、自社の業務特性を理解している同業他社といった形で人材像を絞り込んでいくと、益々、厳しくなっていきます。

III. IT戦略策定上のポイント

デジタル変革の実現に向けて先に挙げた3つの主な課題に対し、KPMGが様々なクライアント企業に対し提供してきた各種サービスを適用したIT戦略策定上のポイントを説明します。

1. 全社レベルで最適なシステムのデザインを定義

デジタル変革においても、IT戦略策定を進めるにあたって各社の要件を正確に把握・分析するツールとして「エンタープライズアーキテクチャ(EA)」が有効と考えます(図表2参照)。経営方針と事業戦略との整合を担保した全社レベルで最適なシステムのデザイン定義に寄与します。

図表2 エンタープライズアーキテクチャ
図表2 エンタープライズアーキテクチャ

出典:KPMG Enterprise Architecture Talk Book

ビジネス、情報(データ)、アプリケーション、セキュリティ&テクノロジーの4階層で、自社のIT基盤の最適化に向けた企画・構想から要件定義までを推進していきます。検討の観点(ポイント)は以下のとおりとなります。

  • 業界特性を踏まえたビジネス戦略を早期にまとめる
  • データ資産をビジネスの俊敏性に適応させる
  • アプリは外部連携への即応性を高める
  • デジタルテクノロジーへの進化に向けて古いものは大胆に捨てる

4階層はいずれも欠かせない重要な要素ですが、その中でも、デジタル変革の実現に向けて鍵となるのは、「ビジネス:Business Architecture」と「情報(データ):Information(Data)Architecture」だと考えます。
ビジネスについては、業界特性に応じたベストプラクティスを調査・分析し、自社のデジタル変革に向けたビジネス戦略を市場の変化に俊敏に対応できるよう、早期にまとめることが重要になると考えます。KPMGが有するソリューション「Connected Enterprise」は、KPMG独自の知見や経験に基づいたデジタルを活用したビジネスモデルの将来像が業種別に定義されており、現在のビジネスモデルとの比較により企業が戦略として取り組むべき課題と対応施策をクイックに提示することができます。
情報(データ)については、IoTに活用されるセンサー技術などテクノロジーの進化に伴い、フロント、ミドル、バックの各部門から大量に類似のデータが日々発生していきます。その中から業績管理指標の把握・分析、経営への示唆出しを迅速に実現するためのデータ活用の仕組みや、社内だけでなく社外連携も見据えたよりタイムリーなデータ活用の仕組みなど、データ資産をビジネスの俊敏性に適応させるための仕組みづくりはデジタル変革実現の要になると考えます。

2. 優れた最新のサービスを最大限活用

レガシーシステムの維持・管理のように長期間にわたって同じシステムを自社で運用、または、法規制の変更に合わせて自社で機能改修を繰り返すといった従来型ITの調達・運用保守スキームからの脱却を果たす必要があります。さらに、システム基盤は可能な限り既成の標準パッケージやクラウド型サービスの積極的な採用により、シンプルで変化に対する適応性が高いシステム基盤を志向する必要があると考えます(近年は、業務適合性の高い標準パッケージやサービスの品揃えが充実しています)。
検討の観点(ポイント)は以下となります。

  • 既存システム刷新は業務要件に応じて手組みする機能やシステムの極小化を志向する
  • 外部イノベータやエコシステムとの連携、クラウドファーストの取組みを志向する

また、従来型ITからの脱却は、各社の事業を支えるIT基盤の大改革として、中長期的な期間・規模の取組みになるケースが考えられます。このような全社的プログラムや大規模プロジェクトの推進に際しては、経営陣から厳しい視線にさらされることが多く、最新の進捗状況を社内発信できる状態にしておくことは言うまでもなく、経営陣からの支援を取り付けられるような推進上の工夫(ポイント)が必要となります。

  • 大規模な基盤改革は段階的なアプローチを採用し、効果の早期創出を図る
  • ITサービスの徹底した標準化とマネジメント能力の強化を図り、実装方式は自社で抱えず、複数案を最新化した状態で保持しておく

3. デジタルリテラシーを全社的に底上げ

ここ数年のデジタル化の波は我々の基本的なリテラシーを劇的に変えるだけのIT環境の変化をもたらしています。クラウド、モバイル、SNS、拡張現実(AR)/仮想現実(VR)、IoTは今やビジネス環境のあらゆる場面で普通に活用されています。また、デジタルネイティブと呼ばれる人材がビジネスの現場で活躍していることも日常的な光景として、何ら特別なことではありません。
 KPMGは、もはやデジタルは何ら特別なことではないと考えています。社内でITリテラシーを高めるために各種トレーニングプログラムを計画的に社内教育に組み込むのと同様に、全社員向けにデジタルテクノロジーに係るリテラシーの底上げ(ポイント)を推進しています(図表3参照)。

図表3 テクノロジーファウンデーションの提供
図表3 テクノロジーファウンデーションの提供

出典:KPMG Technology Foundation Program

  • 短期的には外部人材の活用も必要だが、中長期的には教育プログラムによる全社員のデジタルリテラシーの底上げを図る
  • デジタルテクノロジーやツールを利用者目線で使いこなせる自社に合ったデジタル人材を育成する

デジタル変革の推進に伴い、各事業の業績データの把握・分析から対策に繋げることが、今後より一層、経営側から求められていくと想定されます。AIを活用して高度な判断を自動化したり、データの構造化や分析を自動化するデータアナリティクスの仕組みを構築できる人材や、それらを活用してビジネスの現場に有効な示唆を提示できる人材ニーズの高まりはDXレポートの「ユーザ企業において求められる人材」でも言及されています。このような人材は、ビジネスへの深い理解や統計解析手法といった高度な知識やスキル、先進技術が要求されるため、IT戦略の一環として中長期的に育成を進めていくことが重要です。

執筆者

KPMGコンサルティング株式会社
ITアドバイザリー
パートナー 浜田 浩之
ディレクター 久保田 士郎
シニアマネジャー 鈴木 武佳

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