ブロックチェーンが新しい社会インフラとなるために

「ブロックチェーン活用術」第16回 - 最終回となる今回、改めてブロックチェーンの可能性とそのメリット、また今後の課題について考察する。

最終回となる今回、改めてブロックチェーンの可能性とそのメリット、また今後の課題について考察する。

ブロックチェーンの3つの応用

本連載で紹介してきたように、ブロックチェーンは仮想通貨のインフラとしてだけでなく、様々な業界や業務への利用が期待されている。ただ、ブロックチェーンが新しい社会インフラとして広く利用されるためには、収益向上など具体的なメリットが必要である。
どんなことに応用できるか、現時点での可能性を類型化すると、大きく以下の3パターンに分けることができる。(1)データの改ざんを防ぎトレーサビリティ(生産流通履歴の追跡)を実現(2)複数の組織にまたがった協働事業における情報の共有化(3)トークン(電子コイン)を中心としたコミュニティー作りである。それぞれどんなメリットがあるか、改めて見てみよう。

ブロックチェーンのメリットと今後の課題

(1)の場合は、食品など商品のトレーサビリティが保証されることで付加価値がつき、販売単価の維持・向上につながる。また、模造品が撲滅されることでブランド価値が上がる。
製造業で検査データの改ざんなども問題になるなか、信頼性を担保するためにデータをブロックチェーン上で管理することが必須条件になることも考えられる。製薬業界など一部の業界ではすでに「データインテグリティ(完全性)」という用語が使われ、データの収集から活用まで全ての段階で検査が行われている。

(2)の協働事業での情報共有についても、手間をかけずに利用できる仕組みが整えば、多くの場面で普及すると考えられる。複数の企業間でコンセンサス(総意)を得るためには、検討の段階である程度完成したパッケージ化したものが必要になる。現在、貿易業務では複数のクラウドサービスがあるが、業務ごとの様々なパッケージが増えていけば、企業や組織をまたいだメンバー間で情報を共有するコンソーシアム型のブロックチェーンは早期に普及する可能性が高いとみている。

(3)のトークンエコノミーは、ポイントシステム市場を劇的に変える可能性を秘めている。日本では多くの企業が独自のポイントを発行・運用している。インバウンドによる外国人観光客の増加など、国際的な流動性を高めるためにも手数料の低いトークンに切り替えていくと思われる。

ブロックチェーンは様々な業種や業務で活用できる一方で、まだ発展途上の技術であり、課題や検討すべき項目も多く残っている。それを解決するには1社だけの取組みでは限界がある。今までの発想に捉われず、組織や業務の在り方を根本的に見直したうえで、ブロックチェーンによって狙った効果を実現するために、業界をあげて取り組んでいただきたい。

ブロックチェーン活用のパターン

トレーサビリティー 生産や物流のプロセスに保証を与えることで商品の付加価値を上げる
協働事業 複数の組織をまたがって様々な情報を共有して取引の信頼性を高める
トークンエコノミー 仮想通貨を軸にコミュニティーの活性化を図る

執筆者

KPMGジャパン
フィンテック推進支援室長 東海林 正賢

日経産業新聞 2018年11月26日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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