ブロックチェーンによる新たな資金調達手段 - ICOとSTO

「ブロックチェーン活用術」第15回 - ブロックチェーンによる新たな資金調達手段、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)とSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)について、解説する。

ブロックチェーンによる新たな資金調達手段、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)とSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)について

ICO(イニシャル・コイン・オファリング)とは

ブロックチェーン技術の登場により「分散型社会」というイノベーションの波が様々な業界に広がっている。仮想通貨による独立した経済圏の構築や新たな資金調達の手段としてのICO(イニシャル・コイン・オファリング)もその1つである。

ICOは、企業が独自でトークン(電子コイン)をブロックチェーン上に発行することで、資金を調達する手段である。新規株式公開(IPO)やクラウドファンディングのような監督機関の厳しい審査が課せられることがなく、企業は世界中の投資家から直接、短期間で資金を調達することができる。ICOによる全世界の年間調達額は今年は6月までで130憶ドルを超える。しかし、6月に約40億ドルを調達した大型ICOプロジェクトなどが底上げしているものの、調達額は減少傾向にあり、件数も落ち着いてきている。これは、実現性や透明性に欠けるプロジェクトやプロジェクト自体の中止に加え、投資家のICOプロジェクトへの期待感や仮想通貨への信頼が低下していることが要因と考えられる。

ICO資金調達額と件数

STO(セキュリティ・トークン・オファリング)とは

そんな中、STO(セキュリティ・トークン・オファリング)の検討が進んでいる。STOは発行するトークンを有価証券とし、証券にかかる法律に準じて取り扱われる。米証券取引委員会(SEC)など各国の監督機関の厳しい審査を通過したプロジェクトのみが公開されるため、投資家は信頼性や透明性の高いプロジェクトを前提に投資対象として選択することができる。ただ、監督機関との対応や準備によるプロセスの長期化が予想され、STOは一定の規模や体力を持つ会社のみが発行できる。ホワイトペーパー(事業計画書)1枚で誰でも短期間に資金調達できるICOのメリットはなくなり、スタートアップ企業をはじめとした事業者側にとっては有用なものとならない恐れがある。

現在、仮想通貨に対する各国の規制やガイドラインの整備は進みつつあり、トークンを利用した経済圏は今後も拡大していくものと考えられる。日本では、これらの経済圏の構築には法や会計・税務の制度整備など、まだ欠けていることが多い。投資家や事業者の双方にとって、価値創出やイノベーションに寄与する手段として確立されることが望まれる。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 伊藤 貴比古

日経産業新聞 2018年11月22日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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