新しい目標管理“OKR”:脳科学視点からの活用効果と概要

新しい目標管理“OKR”:脳科学視点からの活用効果と概要

成果を出す有効なアプローチとして、“個人の内発性を高める”ことがより重視されています。本稿では、OKRの概要とともに、脳科学視点からOKR活用効果の科学的根拠を紹介します。

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昨今の変化が激しく予測困難なビジネス環境の中で、成果を出し続けられる強靭な組織であるために有効なアプローチとして、“個人の内発性を高める”ことの重要性がより注目されてきています。個人が“やりたいからやる”という意思=内発性が組織強化とハイパフォーマンスをもたらす数多くの“メリット”を齎すことが数々の研究から裏付けられてきており、働き方改革や生産性向上など“働き方の量”の議論から、内発性を起点とした“働き方の質”へのシフトが求められています。そして組織において期待された役割や職務を遂行し、達成を勝ち得ながらも“内発性”を高めるための有効な人事施策としてOKR(Objectives and Key Results)と呼ばれる目標管理の仕組みがあります。既にAmazonやGoogleといった欧米のグローバル先進・IT企業を中心に導入が進んでおり(2018年時点で約60社(海外)導入との報告あり)、今後国内においても重要な効果を発揮することが強く見込まれます。本稿では、OKRの概要とともに、脳科学の視点からOKR活用効果の科学的根拠をご紹介いたします。なお、本文中の意見に関する部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 変化が激しいビジネス環境下で付加価値創出と成長を維持するために“個人の内発性を高めること”の重要性が注目されており、生産性向上などの“働き方の量”の議論から、内発性を高める“働き方の質”の議論へシフトしている。
  • 内発性を高めることの効果は、心理学や脳科学の様々な研究により、裏付けられており、OKRは内発性を高めるための有効な目標管理の仕組みである。
  • しかし、組織構造やカルチャーにより異なる組織の特徴次第でOKRがフィットしやすい組織と難しい組織が分かれるため、OKR効果の享受のしやすさが変化する。

I.内発性を高める重要性

1.学習意欲を高め、成長を促進する

「有意味感※1」を持つことの価値は、脳の仕組みにルーツがあります。脳は、自身を取り巻く大量の情報の中から意味がある情報と意味のない情報を取捨選択しています。その取組みに意味があると感じることで、人は目の前の取組みに集中し、知識を得ようと努力し、成長へ繋げています。
玉川大学脳科学研究所の松元健二教授は認知脳科学の観点から、「自己決定感※2」と失敗耐性の関係性を明らかにしました。金銭的報酬を得るために取り組んでいる場合(自己決定感が低い)より、その活動が楽しいから取り組んでいる場合(自己決定感が高い)の方が、人は失敗を肯定的に捉え、成長へ繋げていると指摘しています。

2.心身の健康を保ち、仕事への愛着心を高める

“ジョブ・クラフティング※3”の提唱者の米イェール大学経営大学院のエイミー・レズネスキー教授は、有意味感を持ち仕事に取り組む個人は、仕事に対する不安感が少なく、健康で、人生への満足度が高いと指摘しています。
米クレアモント大学院大学経済学・心理学・経営学のポール・J・ザック教授は、脳科学の観点から、自己決定感の有無と健康との関係性を明らかにしました。自己決定感を感じるとコルチゾール※4の慢性的な分泌を抑えることができると指摘しています。

3.目標達成への集中力を高める

米スタンフォード大学心理学のアルバート・バンデューラ教授は、「自己効力感※5」が大きいと、人は目標達成への集中力と不安や心配といった失敗に関連する感情への対応力が高まり、目標達成へ向けて多くの努力を注ぐことを指摘しています。


※1その活動に取り組む意味があるという感覚
※2行動を自ら選択しコントロールしているという感覚
※3ジョブ・クラフティングとは、企業が個人へ仕事を一方的に割り当てるのではなく、個人が取り組みたいことを軸として仕事を自身で設計する働き方
※4コルチゾールとは、人体が慢性ストレスにさらされるときに放出される主要な化学物質。長時間にわたり放出されると動脈硬化を引き起こし、経験したことを記憶に定着させる海馬を委縮させる
※5やればできるという感覚

II.内発性を構成する要素

内発性は“有意味感”、“自己決定感”、“自己効力感”の3要素が同時に満たされると最も高まりやすくなると考えられます。

  • 有意味感:その活動に取り組む意味があるという感覚
  • 自己決定感:行動を自ら選択しコントロールしているという感覚
  • 自己効力感:やればできるという感覚

III.内発性とOKRの関係性

OKR(Objectives and Key Results)には“ムーンショット”、“トランスペアレンシー”、“ネットワーク”、“ピボット”の4つの特徴が備わっています(図表1参照)。

図表1 OKRの4つの特徴
図表1 OKRの4つの特徴
  • ムーンショット:野心溢れるストレッチした課題や挑戦(達成自信度70%程度の目標)
  • トランスペアレンシー:目標、進捗状況、評価などOKRに関する全情報のリアルタイムな組織内公開
  • ネットワーク:組織や個人を超えたナレッジ連携や協力体制の構築
  • ピボット:外部環境の変化に適応するための先を見据えた軌道修正


4つの特徴をフル活用し、“ストレッチ”、“チームワーク”、“アカウンタビリティ”の3つのテーマにチャレンジすることで、有意味感、自己決定感、自己効力感がそれぞれ高まり、結果として個人が内発的行動を取れるようになる仕組みになっていると考えられます。
 

  • ストレッチ:本気で取り組みたい野心溢れる挑戦が目標をさらに高める
  • チームワーク:リアルタイムでオープンな連携がチームワークを形成する
  • アカウンタビリティ:進捗をトラッキングすることで、目標への強い責任を醸成する

IV.OKRの定義

OKRとは、“Objectives and Key Results”(目標と主要な結果)の略称であり、個人の内発性を高めることによる効果的な目標管理の手法です。OKRの構成はシンプルで、1つの“Objective (目標)=「何を」”に対して、複数の“Key Results(主要な結果)=「どのように」”から成ります(図表2参照)。

図表2 OKRの構成例

Objective(目標)
全社の採用活動を促進・強化する

Key Results(主要な結果)

  1. 採用戦略部長を1名採用する
    (今四半期中に最低3人の候補者と面接)
  2. マーケティング・マネジャーを2名採用する
    (今四半期中に最低5人の候補者と面接)
  3. 運営担当課長を1名採用する
    (今四半期中に最低5人の候補者と面接)
  • “Objective (目標)”の定義

Objectiveとは、「何を」達成したいのかを表現した定性的なメッセージです。複数あるObjectiveの中から最も注力すべきObjectiveを1つ選択し集中して取り組むことで、“やらなくてもよいこと”を抽出し無駄な仕事を減らすことができます。
 

  • “Key Results (主要な結果)”の定義

Key Resultsとは、Objectiveの進捗状況が測定可能な定量的なマイルストーンです。1つのOjective(O)に対し3~5つのKey Results(KR)を設定します。KRは、Oの実現を最も妨げそうな要因に対する目標値とすることでより達成難易度が増しますが、最終的に70%程度の達成率を得られるレベルに調整します。失敗を責めず成功を賞賛する思想とコミュニケーションにより、失敗を恐れないチャレンジマインドが形成されやすくなります。


会社全体が同じObjectiveへ向かうように、会社レベル、部や課などの組織レベル、個人レベルでOKRをそれぞれ設定することが可能です(図表3参照)。

図表3 OKRの設定
図表3 OKRの設定

V.OKR導入のねらい

OKR導入のねらいは、個人が内発的行動サイクルを自分自身で回し続けられるようになることにあります。OKRの仕組みを上手に利用することで、個人が内発性に基づき自由な着想を得て(Discovering)課題解決のために行動の優先順位をつけ(Focusing)、周囲を巻き込み(Teaming)、より高い課題を見つける(Glowing)状態を目指します(図表4参照)。

図表4 内部的行動サイクル
図表4 内部的行動サイクル
  • Discovering

個人が内発性に基づき、本気で取り組みたい課題を見つける
 

  • Focusing

課題解決のためのアクションプランの中から、優先度が高いプランにのみフォーカスする
 

  • Teaming

課題解決のために所属組織を超えて周囲を巻き込み、知恵や力を借りる
 

  • Glowing

さらに高く、本質的な課題に磨き上げる・たどり着く

VI.MBOとOKRの違い

組織から与えられたミッションの確実遂行をねらうMBO(Management By Objective and Self Control)に対し、OKRは個人の内発性向上を目的としているがため、目標達成の評価を報酬(昇給、ボーナス、インセンティブ等)の決定に紐づけないことが最大の特徴です(図表5参照)。

図表5 MBOとOKRの比較
図表5 MBOとOKRの比較
  • 報酬の決定に紐づけない理由(1)

内発性に基づき、ある課題に取り組んでいる個人に対して金銭的報酬を与えた場合、内発性を下げてしまうことは“アンダーマイニング効果”として様々な研究で明らかになっています。
 

  • 報酬の決定に紐づけない理由(2)

米Neuroleadership Institute※6の研究によると、目標達成度のレーティング(段階付け評価)やランキング(相対評価)は扁桃体※7を刺激し、闘争・逃走反応を引き起こすことで、事実を隠すといったネガティブな思考や行動を取らせてしまうことが明らかになっています。そのため、OKRの目標達成度を報酬決定の基準としてしまうと、個人はムーンショットに対して挑戦する姿勢を失い、OKRの効果を享受できない可能性が高まると考えられます。
 

※6Neuroleadership Instituteとは、ニューロサイエンスの観点から組織マネジメント研究を行っている研究機関およびコンサルティング会社。2015年からKPMGオーストラリアはNeuroleadership Instituteと協働し、脳科学の知見にもとづいた組織マネジメント改革のソリューションを開発
※7扁桃体とは、不安や恐怖、ストレスなどの感情を司る脳の部位

VII.OKRがフィットしやすい組織の特徴

OKRは、日本においても既に大企業のみならずITスタートアップ企業まで導入され始めており、企業規模や事業体に関係なく導入可能な仕組みです。しかし、組織構造やカルチャーにより異なる組織の特徴次第でOKRがフィットしやすい組織と難しい組織が分かれるため、安易に導入を決定する前に自組織がどのタイプに当てはまるのかを確認することが重要です。組織の特徴を業務タイプ(“企画・創造型”もしくは“運用・確動型”)と現場裁量権(“大”もしくは“小”)の2軸で区分した場合、新しい価値の創出に取り組む“企画・創造型”の業務かつ現場裁量権が大きい組織(図表6におけるタイプI)であるほど、OKRの効果を享受しやすいことが考察されます(図表6参照)。

図表6 OKRタイプ別分析
図表6 OKRタイプ別分析
  • “企画・創造型”業務にフィットしやすい理由

OKRでは達成自信度70%程度のストレッチした目標(ムーンショット)を設定するため、失敗することを前提とした目標管理とも言えます。そのため、安定的・効率的なPDCA管理が求められ長期間にわたる業務(生産管理や経営基盤となる事業を支える業務等)より、試行錯誤と付加価値創出が求められる比較的短期型の業務にフィットしやすいと考えます。
 

  • “現場裁量権が大きい”組織にフィットしやすい理由

OKRでは自身が取り組みたい課題を軸として仕事を設計するため、自己実現をサポートする仕組みでもあります。そのため、個人が組織の意思を汲み、KPI達成にコミットしやすい環境(現場裁量権が小さい)より、個人が自らの意思で自由に仕事を設計しやすい環境(現場裁量権が大きい)にフィットしやすいと考えます。

VIII.終わりに

現在、OKRの導入は特に米国企業で進んでいますが、昨今日本企業でもOKRを導入する企業が増え、その重要な効果を発揮すると考えられています。多くの日本企業が最大限OKRの効果を享受できるよう、KPMGコンサルティングではアセット(導入事例・運用ノウハウなど)を活用し、OKRコンセプトの社内浸透から業務およびITツールの運用設計、OKR定着化などを支援します。

執筆者

KPMGコンサルティング株式会社
ピープル&チェンジ
パートナー 藤原 俊浩
マネジャー 深谷 梨恵
コンサルタント 橋爪 謙

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