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モビリティ・エコシステムが社会に与える影響と未来

モビリティ・エコシステムが社会に与える影響と未来

【KPMGフォーラム2018 パネルディスカッション】急速に進展する海外のモビリティ・エコシステムの動きに出遅れないために、事例紹介も交え、藤井氏を中心に、当該分野における内外の専門家をパネリストとして今後の課題について議論します。

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KPMG フォーラム

(写真左2番目から)

藤井 聡 氏
一般社団法人日本モビリティ・マネジメント
会議理事長

岡村 修 氏
関西電力株式会社
経営企画室イノベーション担当室長

田中 栄 氏
株式会社アクアビット 代表取締役
あずさ監査法人 総合研究所 顧問

木下 洋
あずさ監査法人
テクノロジーイノベーション支援部長

モビリティ・エコシステムは、自動車業界や公共交通だけでなく、国内外の様々な産業を巻き込んで、急速に変革を遂げようとしています。クルマの電動化や自動運転車の普及、そしてカーシェアリングなどのサービスとしてのモビリティ(MaaS)という3つの革新的技術の進歩と、人口減少や地方の過疎化といった社会問題が相まって、世界の産業構造に影響を与える重要なテーマとなっています。本パネルディスカッションでは、前出の藤井氏を中心に、当該分野における内外の専門家をパネリストとして招聘し、急速に進展する海外のモビリティ・エコシステムの動きに出遅れないために、事例紹介も交え、今後の課題について議論します。

過去の延長線上に未来はない

田中:「サステナビリティ」「ライフイノベーション」「クラウドコンピューティング」という3つに象徴されるメガトレンドが変化しています。それによって社会が構造的に変わり、ひいては求められるビジネスが変わってきています。今や10年先も今の事業をやっていれば大丈夫だという会社はほとんど無くなっています。「過去の延長線上に未来はない」のです。
「サステナビリティ」とは、食糧、エネルギーなど「足りない」がビジネスや生活の新しい前提になることを意味します。人口が爆発的に増えるからです。今、世界最大の人口大国は中国ですが、あと4、5年経つとトップがインドに代わります。しかし、インドは中国の半分しか土地がありません。つまり、人口密度が2倍ということ。そういう国が、同じように食糧・資源、エネルギーを欲しているのです。
次に「ライフイノベーション」。近年、生命の設計図であるゲノムに注目が集まっています。さらに最近はテクノロジーによって、ゲノムを改編することさえ可能になってきました。これは、医療はもちろん、農業、畜産、あるいはバイオテクノロジーなど、生命に関わる分野を革命的に変えることになるでしょう。さらに、我々の価値観やライフスタイルまでも大きく変えることになるはずです。
これは、一見自動車にも大いに関係があります。たとえば、「石油が足りないなら、再生可能なバイオディーゼルで代替しよう」とか、ボディだったら「金属が十分に手に入らないなら、バイオプラスチックを使おう」という話になるからです。
この2つは、どちらも歴史的と言っていいほど大きな変化です。しかし、これから10年、何が一番大きな変化かと聞かれたら、私は「クラウドコンピューティング」だと答えます。クラウドはコンピューティングの革命だからです。今までコンピューティングは、事務機器や情報端末に過ぎませんでした。しかし、これからその役割が変わっていきます。人工知能を持ち歩く時代が本当に始まるのです。そして自動車なら「コネクテッドカー」、金融なら「フィンテック」、エネルギーなら「スマートグリッド」など、コンピューティングはネットワークを通じていろんな産業の根底に入っていきます。
本日のテーマである自動車産業について、今後のポイントを4つ挙げましょう。
1つ目は、エンジンからモーターへとパワートレインが変わること。当然、ビジネスパートナーも変わってきます。キーワードとしては、EVや水素が挙げられます。2つ目は、コンピューティングとの融合。先ほど申し上げたような、AI、ネットワーク化が、これから自動車にも大いに関わってきます。3つ目は、ビジネスモデルの転換です。これは自動車という産業そのものが変わるということ。最近は「モビリティ」という言葉が好んで使われていますが、これは自動車の捉え方が変わりつつある象徴だと思います。近年は「MaaS」という言葉も注目を集めています。自動車がネットワークに繋がることで、これからのサービスとして利用できるようになる。こういった点でも産業構造は変わります。4つ目は、メインとなるプレーヤーやマーケットが変わるということ。これからのメインマーケットは中国やインドです。当然のことながら、競争相手も変わってくるでしょう。

新しいエネルギーシステムへの挑戦

木下:モビリティといった場合、自動車だけではなく、さまざまな産業が関係してきます。たとえば公共交通に物流。それから、関西電力様のようなエネルギー産業。これから自動車のパワートレインも電動化していくことは目に見えています。家電と違って、どうやって電力を供給するかとか、喫緊の課題はたくさんあるのではないでしょうか。


岡村:本日は低速モビリティ「iino(イイノ)」プロジェクトとモビリティ・エコシステムと連動するVPP(バーチャル・パワー・プラント)の2点について説明します。
当社には自由度を持って新しい事業を創出しようとする若手の自主活動「k-hack(ケイハック)」という集まりがあり、「iino」はこのk-hack発で生まれたアイデアです。
「iino」は時速5kmで新しい価値を提供する自動走行モビリティであり、低速・短距離の領域でのサービスの事業化を検討しているところです。具体的には、自動走行によるドライバーコストゼロ、移動以外の付加価値(地域観光情報、グルメ情報等)を提供することでの収益化等の課題検証を行っています。
今後、「iino」は、大規模なスマートシティ開発や地方のコンパクトシティでの歩行代替等のラストワンマイルのツールになり得ると考えています。年明けには大阪市の協力を得て、大阪城公園での実証を行う予定としてます。
次にエネルギーとモビリティ・エコシステムを関連させて話をします。
電力供給というのは、需要と供給をちょうどバランスさせながら、周波数をぴったりと合わせて電気を送り続けます。従来型ですと、供給力を需要に合わせ、周波数を維持してきました。すなわち、電源を調整することで周波数を維持していたのです。
しかしこれからは、需要に色々な形が入ってきますので、需要側でもアグリゲーターを通じて、蓄電池の充放電や、消費機器の運転制御等を行って、効率的に両者をバランスさせていく。そして、リソースを所有している方には、応分のインセンティブをお渡しする。こういったものがVPPの取組みです。
このVPPとモビリティの関係では、EVの蓄電池をリソースとして活用できないかと考えており、当社もこれまで「EVスイッチを活用した電気自動車の充電遠隔制御」や、再生可能エネルギー由来の充電をEVに行い、その受電分をショッピングモールで放電し、電気の価値、環境価値をポイントとして還元するといった検討を行っています。このように、VPPとモビリティというのは、様々な関連性があると思っています。
集中電源による電力の供給時代から、分散電源にリソースが拡大する中で、両方を効率的に運営・運用することを可能にするため、VPPといった新しいエネルギーシステムの導入に挑戦し、「まち」と共存する未来型モビリティ・エコシステムの実現に貢献することを目指しているところです。

経済全体が大きく循環していく産業構造の変化に期待

木下:今、一番大きな影響を受けそうな自動車産業にしても、もう今までの産業構造ではないということに気づかなければなりません。既存のプレーヤーと新規のプレーヤー、2つに分けて考えなければならないのです。既存のプレーヤーたる自動車産業。これは、今までは車を大量に作って大量に売るというビジネス構造でした。しかし自動車のEV化が進むと、車の構造自体が変わります。下請けも含めて系列全体が大きな影響を受けます。
大事なのは、新しいことを取り組むことによって、需要が増えるということです。今までのモビリティ、たとえば車や電車を何かに置き換えるのではなく、新しい技術を導入して、より移動の需要を増やすことが大事なのです。そうすることで、交通弱者、あまり移動のできなかった人たちの移動が活発になったり、あるいは今まで移動していた人も、よりいろいろな場所へ快適に移動できるようになる。そういうことで、経済全体が大きく循環していくような、そういう産業構造の変化を期待したいと思います。


岡村:
EVは、今の日本の電力系統からの電気であれば、ハイブリッドよりも環境性は上回ります。燃料電池車にも少し勝るという評価もあります。さらに、太陽光発電由来の電気で充電すれば、これはもう究極のエコカーだと言えるでしょう。中国で問題になっている排ガスによる都市の環境施策にもなるということで、EVはどんどん増えていくと受け止めています。
一方、EVが増えても電力供給面については、それほど問題ではありません。たとえば、今の普通自動車の2割がガソリン車からEVに変わった時の電力使用量の総量は、現在の総電力販売量の1%強くらいと言われています。さらに太陽光から直接充電することもありますので、EVが増えても、当面の電力は供給できるという状況です。
我々供給事業者側は、当然、電源の低炭素化ということで、原子力や水力、再生可能エネルギーなどを組み合わせて、さらに電気を低炭素化していくことが重要だと思っています。
また、最近、九州エリアで再エネ電源による発電を抑制されるという話が出ておりますが、これは、先ほどのVPPの技術を使えば、再生可能エネルギーの電源抑制を回避できるという対応が可能であり、さらなる電源の低炭素化、再生可能エネルギーの比率を上げられるかと思います。このように、エネルギー構造がこれから変わっていくと思っています。

モビリティにはビッグチャンスが待ち受けている

藤井:ものの考え方として、ものすごく先のことを考えるのではなく、足元でどういうビジネス展開があるのか、今年や来年、再来年の戦略を立てていただきたいというのが、私の一番言いたいことです。
そのなかで、どういうビジネス展開ができるか。具体的なことを5つ申し上げます。
1点目は、シェアリングがこれから必ず拡大すること。拡大できるところには確実にビジネスチャンスがあります。シェアリングはすごく便利ですから、日本でも近未来に広がる可能性が十二分にあると思います。
2点目は、自動運転を国土交通省が考えているような格好で導入していってもらいたい。トラックやバス、タクシー。自動運転は新しいマーケットですから、そこにビジネスチャンスがあります。
3点目は、電力だけではなく、ガスや水素といったエネルギービジネスの、これから転換していくところに、モビリティを融合する。この発想でモビリティビジネスとエネルギービジネスの両巨大マーケットを融合したところに新しいビジネスチャンスが確実にあると思います。
4点目はすべてのビジネスが関係するところですが、今、レガシーシステムが2025年の壁と言われています。これから5年以内に確実にデジタル・トランスフォーメーションしないといけないと、皆さんも聞いたことがあるでしょう。このデジタル・トランスフォーメーションをする時に、モビリティ的な要素を加えることで、新しいビジネス展開が増えるというのは確実にあると思います。
5点目。これから大阪万博があります。この機会に向けていろいろなものを試すチャンスがあります。モビリティは、未来がデフレになろうがマーケットが必ずある。だからこそ、このモビリティをしっかりと導入して、いろいろな業種の方が新しいトライアルをしていただきたいです。


岡村:今後のビジネス展開について、テクノロジー的に2点申し上げておきます。まず蓄電池の二次利用。車載用としての寿命を終えた蓄電池を家庭や工場で二次利用し、モビリティ・エコシステムと連動させていく必要があります。
もう1点は非接触充電。たとえば、EVと非接触充電を使えばガソリンの継ぎ足しがなくなるのはもちろんのこと、遠隔充電の制御ができ、利用者は常にフル充電で乗ることができます。さらにはVPPとの接続も可能で色々なメリットがでるのではないかと考えています。


藤井:新しい投資、新しいトライアルの先でしか、新しいビジネスを取ることはできません。デジタル・トランスフォーメーションとか、エネルギーを新しくするとか、このような新しい流れの中にモビリティをどう融合するか。これを考えるところに、何か新しい発展があるかもしれません。