IHQ, ITCの税務インセンティブに関するアップデート
タイニューズレター - 2018年10月10日、タイ歳入局からInternational HeadquartersとInternational Trading Centersの税務インセンティブの新規申請の受付終了と新しい制度の導入に関するアナウンスがありました。
2018年10月10日、タイ歳入局から税務インセンティブの新規申請の受付終了と新しい制度の導入に関するアナウンスがありました。
今回のタイ歳入局からのアナウンスは、International Headquarters(以下IHQ)及びInternational Trading Centers(以下ITC)のBOIの投資奨励に影響はありません。また、すでにタイ歳入局からIHQ(旧制度であるROHを含む)やITCの税務インセンティブの承認を得ている場合も、その税務インセンティブは従来と同じ条件にて引き続き有効であるため、影響はありません。
今回のタイ歳入局からのアナウンスに関して影響があるのは、タイ歳入局に対して新たにIHQやITCの税務インセンティブの申請を検討していた会社となります。タイ歳入局は、2018年10月10日付でIHQとITCの税務インセンティブの新規申請の受付を終了し、今後International Business Center(以下IBC)という新たな制度のもとで税務インセンティブの申請の受付を開始する(現時点で受付開始時期は未定)と公表しています。
1. BOIの投資奨励とタイ歳入局の税務インセンティブ
IHQ及びITCについては、BOIの投資奨励と、タイ歳入局の税務インセンティブは、それぞれ違うものになります。混同しやすいので、それぞれの制度について簡単に解説します。
BOIの投資奨励 | タイ歳入局の 税務インセンティブ |
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主な恩典 |
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主な適用要件 |
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上記のとおり、外資企業はIHQやITCの業務を行うのにBOIの投資奨励は必須となります。一方、IHQやITCの税務インセンティブ(法人税や個人所得税の減免等)については、BOIの投資奨励を受けただけでは適用されず、タイ歳入局に対して別途申請してタイ歳入局の承認を得る必要があります。例えば、外資規制の適用がないタイ資本企業については、BOIの投資奨励を受けずに、税務インセンティブのみをタイ歳入局に申請しているケースもあります。
今回のタイ歳入局のアナウンスの影響は、今後IHQとITCの税務インセンティブをタイ歳入局に対して新たに申請する場合、上記の(従来の)恩典・適用要件のもとで申請ができなくなり、今後IBCという新たな恩典・適用要件のもとで申請しなければならなくなったことにあります。
2. 従来の制度(IHQ・ITC)と新制度(IBC)の違い
今回のタイ歳入局からのアナウンスによって、今後IHQとITCの税務インセンティブをタイ歳入局に対して新たに申請する場合は、以下の恩典・要件のもとで申請することになります(現時点で受付開始時期は未定)。なお、その恩典・要件については現時点で概略のみが公表されており、今後タイ歳入局からIBCの業務範囲とともに、その要件等の詳細が公表されるものと考えられます。
税務恩典
IHQ・ITCの税務インセンティブ (従来の制度) |
IBCの税務インセンティブ (新制度) |
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法人税 |
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関係会社からのサービスフィーについて、IBCの業務に必要な経費の支出額が年間60百万バーツ以上の場合は8%、300百万バーツ以上の場合は5%、600百万バーツ以上の場合は3%の軽減税率を適用 ※ITCの三国間貿易取引にかかる法人税の免除が継続されるかは不明 |
法人税 | 国外の関係会社の株式の売却益に対する法人税を免除 | 左記の税務恩典が継続されるかは不明 |
個人所得税 | IHQまたはITCの業務に従事する外国人社員の個人所得税を一律15%に軽減 | 左記同様(IBCの業務に従事する外国人社員の個人所得税を一律15%に軽減) |
源泉税 | 国外の関係会社に支払う配当金(法人税の免税所得から支払うものに限る)及び借入利息の源泉税を免除 | 左記同様(国外の関係会社に支払う配当金(法人税の免税所得から支払うものに限る)及び借入利息の源泉税を免除) |
特定事業税 | 関係会社からの受取利息に対する特定事業税を免除 | 左記同様(関係会社からの受取利息に対する特定事業税を免除) |
適用要件
IHQ・ITCの税務インセンティブ (従来の制度) |
IBCの税務インセンティブ (新制度) |
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サービス 提供先 |
IHQの場合、1社以上の国外の関係会社にサービス提供をすること | 左記の要件がどのように変更されるかは不明 |
資本金 | 資本金が10百万バーツ以上であること | 左記同様(資本金が10百万バーツ以上であること) |
経費 | IHQまたはITCの業務に必要な経費をタイ国内にて年間15百万バーツ以上支出すること | IBCの業務に必要な経費をタイ国内にて年間60百万バーツ以上支出すること |
従業員 | - | IBCの業務に従事する従業員が10名以上であること(Treasury Centerなどの金融サービスを行う場合は、従業員が5名以上であること) |
今回のタイ歳入局からのアナウンスによれば、税務恩典が縮小傾向となる一方、経費の最低支出額が15百万バーツから60百万バーツに引き上げられたり、最低従業員数の要件が追加されるなど、その税務恩典の適用要件のハードルが上がったことは否めません。
KPMGのコメント
今回のタイ歳入局からのアナウンスにより、従来のIHQやITCの税務インセンティブが見直されたことになりますが、その背景には、昨年タイがBEPS(税源浸食と利益移転)のメンバーに加入したという事実があります。BEPSのメンバーにはOECD加盟国と同様、最低限対応すべき措置の一つとして「有害税制への対抗」が求められますが、そこでOECDに加盟する諸外国より、IHQ及びITCの税務インセンティブについて「有害税制」の可能性を指摘されており、改善を求められていました。
なお、IHQやITCのBOIの投資奨励については、現時点でBOIからアナウンスはありませんので、これまで通りの運用となりますが、今後のBOIの動向にも注視する必要があります。