IFRS-ICは、2018年11月のIFRS-IC会議で、次の通り指摘した。
(1)顧客は、契約開始日にソフトウェアという資産を受領するのか、契約期間にわたってサービスを受領するのか
契約が、1.ソフトウェアのリースを含むか、又は2.契約開始日をもってソフトウェア自体の支配を顧客が獲得するのであれば、顧客は契約開始日においてソフトウェアという資産を受領するといえる。
1.リース
- IFRS第16号の定義より、契約がリースに該当する場合、対象資産の使用方法及び使用目的の変更に関連する意思決定権はリース開始日に顧客に移転する。
- もし、契約がサプライヤーのアプリケーション・ソフトウェアに一定期間アクセスする権利のみを顧客に与えるものである場合、ソフトウェアの使用方法及び使用目的に関連する意思決定権(例 いつ、どのようにソフトウェアを更新又は再構成するかや、どのハードウェアを使ってソフトウェアを機能させるか等の決定権)は顧客に移転しないため、当該契約はリースを含まない。
2.無形資産
- 資源が企業にとっての資産であるためには、当該資源を企業が支配している必要がある(IAS38.8)。対象となる資源から生じる将来の経済的便益を獲得するパワーを有し、かつ、当該便益への他者のアクセスを制限できる場合に、企業は無形資産を支配しているとされる(IAS38.13)。
- もし、契約がサプライヤーのアプリケーション・ソフトウェアに一定期間アクセスする権利のみを顧客に与えるものである場合、顧客はソフトウェア自体から生み出される将来の経済的便益を獲得するパワー及び当該便益への他者のアクセスを制限する権利を与えられるわけではないので、顧客は契約開始日に無形資産を受領していないこととなる。
以上より、契約期間にわたってアプリケーション・ソフトウェアにアクセスできるという契約はリースにも無形資産にも該当しないことからサービス契約であり、顧客は契約期間にわたってサービスの提供を受ける。サービス提供を受ける前に対価を支払う場合、それは将来のサービス提供を受ける権利に対するものであるため、当該権利に対する資産を認識することとなる。
(2)契約がリースである場合、顧客はIFRS第16号を適用すべきか、IAS第38号を適用すべきか
- ライセンス契約に基づいて借手が保有している権利は、IAS第38号の範囲に含まれ、IFRS第16号から除外されている(IAS38.6,IFRS16.3(e))。
- IAS第38号にはライセンスについての定義はない。しかし、IFRS第15号によればライセンス(ソフトウェアのライセンスを含む)は、企業の知的財産に対する顧客の権利であり(IFRS15.B52)、企業の知的財産を使用する権利を顧客に与えうるものである。
- したがって、ソフトウェアのリースは、IFRS第16号ではなく、IAS第38号の範囲に含まれるライセンス契約である。
- 顧客がソフトウェアを使用する権利は物理的実体のない識別可能な非貨幣性資産、すなわち無形資産であり、顧客がその支配を有しているのであれば、契約開始時に無形資産としての使用権を認識することとなる。ソフトウェアを使用する権利を有しているかどうかは、契約条件を勘案して評価する必要があり、IFRS第15号B58項~B62項の規定がその評価を行うにあたって有用となりうる。
(3)顧客は無形資産をどのように測定するか
- 無形資産は、取得原価で当初測定する必要がある(IAS38.24)。
IFRS-ICは、2018年11月のIFRS-IC会議で、現状のIFRS基準書の要求事項が十分な判断の基礎を示していると判断し、アジェンダに追加しないことを暫定的に決定した。