移転価格税務調査の最新動向

ベトナムニューズレター - 2017年に、経済協力開発機構(OECD)の税源浸食と利益移転(BEPS)を踏まえた移転価格税制に関する規制変更がなされました。

2017年に、経済協力開発機構(OECD)の税源浸食と利益移転(BEPS)を踏まえた移転価格税制に関する規制変更がなされました。

ベトナム政府は政令であるDecree20/2017/ND-CP(Decree 20)を発行し、財政省は通達であるCircular41/2017/TT-BTC(Circular 41)を発行しました。規制変更に加え国家予算確保のプレッシャーを背景として、2018年1月より、主としてベトナムに投資を行う多国籍企業を対象に税務当局、財政省等による移転価格税務調査がより活発に行われています。

2016年には、赤字企業、重要な関連者間取引がある企業、移転価格税制の論点があると推測される企業、計329社を対象に移転価格税務調査が行われました。2017年には、計734社を対象に移転価格税務調査が行われ、前年比で対象社数は100%超の増加となりました。2018年では、現時点までに実行された移転価格税務調査の公式な統計数値はないものの、2017年11月20日付けの2018年度税務調査計画に関するOfficial Letter No. 5339/TCT-TTrの税務総局の指示のもと、非常に多くの企業が移転価格税務調査の対象となっています。下期までにはほとんどの企業においてマスターファイル、ローカルファイル、国別報告書作成を含む法人税申告の法定期限が到来することを勘案すると、2018年下期には税務調査の件数はより多くなる見込みです。

企業は、関連当局による移転価格に関する指摘に対応するために、移転価格税務調査の手続、関連当局による指摘事例、潜在的な移転価格リスクについて留意し、将来移転価格税務調査の対象となった場合の対応策を検討しておくことが望まれます。

移転価格税務調査対象となる可能性が高い企業

以下に該当する企業を主な対象に移転価格税務調査が行われています。
 

  • 重要な関連者間取引のある企業、数年間赤字が継続している企業、同業他社と比較し利益率が低い企業

    過去の移転価格税務調査は上記の企業を対象に行われており、2018年も引続き同様の傾向となることが予想されます。赤字企業だけでなく、低利益率の企業も移転価格税務調査の対象となる可能性が高いことに留意が必要です。税務当局は、納税者が年次で報告した財務数値をもとに、独自のデータベースを有しています。税務当局は、通常、当データベースを用いて納税者と同業種の比較対象企業の利益率を暫定的に算出し、納税者の利益率と比較することで、税務調査の対象とする企業を選定します。また、Decree20の免除要件の利益率(販売業5%、製造業10%、加工業15%)よりも低い利益率の企業を対象に移転価格税務調査を行う場合もあります。
     
  • 無形資産、グループ会社間のサービス、グループ会社間の財務取引を行う企業

    Decree20の「実質主義の原則」、「グループ会社間サービス取引の損金算入要件」、「無形資産の開発、改良、維持、保護及び活用機能に関する検討」、「支払利息の損金算入要件」といった原則及び規定に従い、利益率が高い企業であっても、海外関連者に対するロイヤルティ及びサービスフィーの支払いがある場合、税務当局が当支払いに関して批判的に検証する可能性があります。すなわち、支払取引が独立企業間原則を順守していない場合、法人税法上、これらの費用が損金不算入となる可能性があります。

指摘事例及び潜在的な移転価格リスク

2013年に財政省が移転価格のアクションプランを策定してから6年弱が経過しました。移転価格税務調査において、税務当局により算定された利益水準に基づき移転価格調整を行うという結論も多く生じています。税務当局は、このように結論づけるために、以下の様々な理由を用いています。

  • 関連者間取引の開示申告書類を年次で提出しなかった又は移転価格文書を税務当局からの要求時に提出しなかった。
  • 開示申告書類の関連者との取引金額、価格算定方法が不適切である。価格算定方法、移転価格分析方法について税務当局の見解の相違に起因する場合もある。
  • ベトナム国外で事業を行う外国の比較対象企業の選定は認めない。所在国が異なる場合、労働コスト、管理コスト、引渡条件、事業環境等が異なるため、比較対象企業の利益率に重要な影響を及ぼす事項があるかもしれない。理論上は、これらの要因はデータの信頼性の根幹を揺るがすものではない。しかしながら、これらの要素が納税者と比較対象企業の重要な差異に係る調整を考慮しなければならない。
  • 独立企業間取引を行う比較対象企業の選定がなされていない。税務当局によっては、比較対象企業は対象年度において関連者間取引を有していないこと、(外国の比較対象企業であるにも関わらず)関連者の定義はベトナム規制に従って判断すべきとの主張がなされることもある。本指摘事項は法規制の過度な解釈とも思われ、これらを含めたコンプライアンス順守の対応をとった場合、企業の実務上の負担が重くなることが想定される。
  • 税務当局独自のデータベースが納税者が使用した商用データベースとは異なり、税務当局独自のデータベース内で納税者が選択した比較対象企業をリサーチできない。移転価格分析にあたり、データベースは他の企業の財務データを含む商用データベースの提供業者(Thompson Reuters, Bureau van Dijk’s Osiris等)を利用するため、あるデータベースで特定した企業が別のデータベースには含まれない可能性はある。従って、比較対象企業の選定基準は、全てのデータベースに含まれるか否かという観点ではなく、移転価格ガイドラインで規定される多数の要素についての類似性で検討すべきである。本指摘事項は法規制の過度な解釈とも思われる。
  • グループ内のサービス・無形資産取引が便益テストを満たせない又は価格決定方針が不適切であるため、法人税法上の損金算入要件を満たさない。

本質的には、規制上、関連者間取引の開示申告書類を提出しなかった又は移転価格文書を税務当局からの要求時に提出しなかった納税者について税務当局による移転価格調整がなされるはずです。一方、開示申告書類及び移転価格文書を提出した納税者の場合、税務当局が提出された移転価格文書に記載されている関連者間取引の独立企業間価格の検証、評価、決定を行う必要があるため、税務当局による移転価格調整はなされないはずです。ただし、独立企業間原則の適用に関する専門性に起因し納税者の移転価格の見解を否定する可能性は残ります。

しかしながら、昨今の移転価格税務調査の実務においては、上記のとおり、確固たる法的根拠はないものの、様々な理由により年次の開示申告書類及び移転価格文書を提出した企業に対して税務当局が移転価格調整を行う例が散見されます。当移転価格調整により追徴税額、罰金、遅延利息の発生に加えてネガティブな評判につながる可能性もあります。

上記の指摘を勘案すると、納税者の移転価格の主張を守るために、適切に分析・記載された年次の開示申告書類の提出と合理的なベンチマーク分析を含んだ移転価格文書の整備をすることが重要です。移転価格税務調査においては、合理的なベンチマークのレンジの税務当局との交渉にあたり移転価格文書が最初の説明手段となります。さらに税務当局からの指摘事項への対応にあたり、多大な労力と深い専門知識も要求される点に留意が必要です。

移転価格税務調査の主な流れ

移転価格税務調査の主な流れ

移転価格税務調査

留意点

  • 移転価格税務調査は単独又は他の税目(例:法人税、VAT)と同時に行われます。
  • 移転価格税務調査では、通常、納税者に14~16項目を含む標準的な必要資料リストが送付されます。項目の中には、移転価格文書、販売及び購買取引の関連者間及び独立企業間価格に関する内部資料等も含まれており、これらの資料は移転価格調整を目的として使用される可能性があります。
    2018年上期では、公式の移転価格税務調査に加え、地方税務当局は多くの納税者に関連者間取引の見直し、必要に応じて自主的に移転価格調整を行うことを要求しています。仮に必要な措置を講じなかった場合、将来の移転価格税務調査の際に追徴課税等が生じる可能性があります。

1回目の抗弁

1回目の抗弁

2回目の抗弁

2回目の抗弁

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