Real-time IFRS 9: IFRS 9 bank disclosures #5

Real-time IFRS 9は、銀行業のIFRS第9号の適用状況についての最新動向をお伝えするものです。 - 半期報告書で追加された新しい減損開示に関する考察 -

Real-time IFRS 9は、銀行業のIFRS第9号の適用状況についての最新動向をお伝えするものです。 - 半期報告書で追加された新しい減損開示に関する考察 -

銀行業のIFRS第9号に関する開示

半期報告書で追加された新しい減損開示に関する考察

大半の欧州大手行は、現時点でIFRS第9号に基づく最初の半期報告書を公表しています。これらの報告書は、IFRS第9号という新基準に基づく報告の全体像を把握するのに役立っています。

その全体像は、銀行の2017年度の年次報告書や第1四半期報告書を通じて、英国の大手行及び他の一部の欧州の銀行が公表した移行レポートにおける有益な情報とともに、徐々に発展しています。

半期報告書が公表された現在も、新たに発見した事項がありました。その多くは過去に発見した事項と整合しているものの、より詳細なものになっていました。

その開示の大半は、最も大きな影響を及ぼす事項である減損に関する開示です。銀行は、新しい分類規定の影響については限定的な開示を提供していました。本稿では、IFRS第9号の適用において関心のある事項として、以下の3つを選定しました。

  • ステージ間の資産の移動に関する要件
  • 将来予測的な経済シナリオの利用
  • 銀行の予想信用損失(ECL)の感応度

ステージ間の資産の移動に関する要件

IFRS第9号では、金融資産は以下の3つのステージのうちの1つに配分されます。

  • ステージ1:資産の当初の組成時または購入時
  • ステージ2:資産の信用リスクが著しく増大した場合
  • ステージ3:資産が信用減損した場合

各行は、資産がステージ1からステージ2に移動する場合について独自の要件を設けています。これは、新しい減損モデルにおいて最も重要な判断を要する事項の1つです。

すべての銀行において、KPMGは、ステージ2への移動について定量的要因と定性的要因の両方が検討されていることを発見しました。定量的要因とは、通常デフォルト確率(PD)です。定性的要因には、資産のウォッチリストへの掲載やリテール・ポートフォリオに関する信用調査機関のスコアの下落等があります。KPMGが選定した2行は、分位点回帰に基づく統計的アプローチを適用しています。

ほぼすべての銀行が、30日の期日経過というバックストップを適用しています。30日の期日経過の時点で、資産は必ずステージ2に移動しますが、通常は主要な指標として用いられることはありません。

定量的分析の適用方法には、多種多様な方法があります。複数の銀行は、当初認識時に見積ったPDの2倍を資産がステージ2に移動する閾値とみなしていますが、その旨を開示している銀行の大半は、より詳細な要件も設けています。

多くの銀行は、ポートフォリオ別に異なる閾値を設けています。多くの場合、リテール・エクスポージャーとホールセール・エクスポージャーとを区別しています。ある1行は、リテールの住宅ローンにはPDの8倍の増加、消費者金融には4倍の増加という閾値を適用している一方、別の1行では、当初認識時の信用リスクに応じて、0.15%から2倍までの範囲のPDの増加を閾値として適用しています。大半の銀行は、相対的な増加とともに、絶対的な閾値を用いています。

「正しい」アプローチはあるのか

多く寄せられる質問の1つに、「自行のステージ間の移動の要件は正しいか。その要件が正しいかどうかをどのように確認するのか」という質問があります。

銀行は、自らのステージ間の移動の要件がどの程度適切かを検証するための指標を複数用いています。その1つは、ステージ間の移動の時期がエクスポージャーが期日を30日経過する時期とどの程度整合しているかというものです。通常、エクスポージャーは期日を30日経過する前にステージ2に移動することになります。なぜなら、延滞状況は遅行指標であるのに対し、ECLモデルは将来予測的だからです。これに関する開示は、前回までに検証しています。

もう1つの指標は、エクスポージャーがどの程度の頻度でステージ1とステージ2の間を移動しているかというものです。エクスポージャーがあまりに頻繁に両ステージ間を移動している場合には、ステージ間の移動の要件の感応度が高過ぎる可能性があります。

KPMGは、ステージ2の資産からステージ1の資産に振り替えられたECL引当金の額をステージ2の資産に対するECL引当金の期首残高の割合から検証することによって、このことを理解しようとしました。このような移動は、IFRS第9号に基づく報告期間である最初の6ヶ月間にわたって発生していました。選定した対象は、このような情報を開示した欧州及びカナダの大手行です。

すべての資産についてこの割合の幅は、割合が80%である1行を含んでいますが、この銀行を除くと、大半の他行では、20%から30%を示しています。2018年度の年次財務諸表が公表された際により詳細な調査を行うと、興味深い結果が得られそうです。

将来予測的な経済シナリオ

IFRS第9号の減損モデルは将来予測的であるため、銀行はECLを計算するために将来の経済シナリオを検討しなければなりません。KPMGは、選定した欧州及びカナダの20行がこの課題をどのように処理しているのかを調べました。大半の銀行は、3つから5つの経済シナリオを適用していました。

選定した欧州の7行は、適用した各経済シナリオに割り当てた確率を開示していました。

選定した各行のベース・シナリオに割り当てられた確率は30%から80%です。ベース・シナリオは通常、銀行が予算、戦略及び資本計画の策定や、他の経営及び報告の目的のために用いたインプットと整合しています。

感応度分析

ECL数値の仮定の変化に対する感応度の開示は、議論の余地がある事項です。IFRS第9号の減損モデルには多くの判断が必要であり、種々の市場関係者は異なる判断が下された場合にどのような影響が及ぶのかを知ることに関心を抱いています。

英国の大手行は、このような情報を開示し始めています。KPMGが調査した開示で最も頻繁に表示されている種類の開示は、ベース・シナリオにさらに将来予測的な経済シナリオを追加することによってECLがどの程度変動するかというものです。大手6行でこのような情報が開示されており、減損額のシナリオ追加に対する感応度の範囲が比較的広いこと(2%程度から20%超までの範囲)が判明したのは興味深いことです。

ある1行は、2018年度の年次財務諸表において、将来予測的なシナリオ、確率のウェイト付け、ステージ2の閾値及び事後のモデル調整に関する経営上の判断への感応度について、より定量的な情報を開示する予定であることを明記していました。

次の展開

KPMGは引き続き、これまでに公表された情報を分析中です。次回は年末前に、年次財務諸表の表示及び開示についての新しい所見や考察をお伝えする予定です。

英語コンテンツ(原文)

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