新技術とリスクモニタリングの未来 ~英知とテクノロジーを高度に融合~

「ビジネステーマ解説2018」連載第3回 - AIをはじめとする新世代の技術がもたらす新たな可能性を考察する。

AIをはじめとする新世代の技術がもたらす新たな可能性を考察する。

最近のテクノロジーとビジネスモデルの高度化は、企業が抱えるリスクを複雑化、かつ多様化させており、これに伴ってモニタリングすべきデータ量も膨張し続けている。テクノロジーとビジネス環境の急速な変容に追随するよう、会計、法律、ガバナンス、危機対応などの従来からある専門家の英知を、人工知能(AI)などのテクノロジーと高度に融合していく必要がある。

米国のある金融機関は、米国の金融規制であるボルカールールに対応するため、膨大な量の契約書等のうち、当該規制に抵触するリスクのあるものを分類する必要に迫られていた。全ての文書を人為的に判読していたのでは、膨大な時間とコストがかかる。またサンプリングやキーワード検索だけでは、規制当局が要求する精度を満たすことができない。

そこで、この金融機関はKPMGによる支援の下、機械学習アルゴリズムを用いたリスク抽出を試みた。法律や金融の専門家による判読結果を基に、自然言語処理学習アルゴリズムと組み合わせたところ、従来手法の数十分の一の工数で、高精度のリスク抽出を行うことができたのだ。

こうした専門家のナレッジや認知能力をコアに、AIで超効率的な処理を行う仕組みは、「HITL(ヒューマ・イン・ザ・ループ)」と呼ばれている。

単純作業は自動化される一方、高度で柔軟な判断を伴う専門家の知的活動は、AIなどの先進テクノロジーが触媒となって増幅し、膨れ上がった対象データや複雑化するリスクへの対抗手段として残る。

AIをはじめとする新世代の技術は、単純な労働力の代替だけではなく、専門家たちの有する英知の増幅装置として利用することにより、さらに大きな効果を発揮する可能性を秘めている。

専門家×AIを実現する「HITL」の例

専門家×AIを実現する「HITL」の例

執筆者

KPMG FAS
ディレクター 堀田 知行

電波新聞 2018年4月19日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、電波新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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