台湾における2018年度税制改正

本稿では、改正に関連する台湾における所得税法の概要と、税制改正の内容を解説します。

本稿では、改正に関連する台湾における所得税法の概要と、税制改正の内容を解説します。

2018年2月7日に改正所得税法が総統により公布され、2018年1月1日に遡って施行されました。当該改正には、日系台湾子会社に直接影響のある、台湾での法人税に当たる営利事業所得税(以下「法人税」という)の17%から20%への引上げ、未処分利益に関する追加所得税率の10%から5%への引下げ、非居住者への配当時の源泉徴収税額からの納付済追加所得税額の半額控除の廃止が含まれています。特に非居住者への配当時の源泉徴収税額からの納付済追加所得税額の半額控除の廃止は、配当のタイミングによって日本親会社等の非居住者株主の税負担に大きく影響するため、各企業においては、当該改正内容を十分理解した上で2018年中の配当金額を慎重に検討する必要があります。

本稿では改正に関連する台湾における所得税法の概要と、税制改正の内容を解説します。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 2018年度の税制改正により、日系台湾企業に影響のある以下の改正が行われた。
    • 法人税税率の17%→20%への引上げ
    • 未処分利益に関する追加所得税率の10%→5%への引下げ
    • 配当時の源泉徴収税額からの納付済追加所得税額の半額控除の廃止
  • これにより2018年12月末までとそれ以降での配当で、非居住者である日本親会社への配当に関する負担額が大きく異なる可能性がある。
  • 居住者個人株主の配当課税方法が変更された。
    • 個人総合所得税計算による累進税率の適用から、一定税率による分離課税を含む2方式からの選択が認められた。
  • 居住者個人所得税の所得控除が拡大された。
    • 標準控除の9万台湾元→12万台湾元への引上げ
    • 給与所得控除の12.8万台湾元→20万台湾元への引上げ
    • 障碍者控除の12.8万台湾元→20万台湾元への引上げ
    • 就学前幼児童特別控除の2.5万台湾元→12万台湾元への引上げ

I.改正の趣旨

2018年の台湾税制改正は、租税公平の原則の下、永続的な財政収入の確保と経済発展の好循環を目指し、主として次の目的のために実施されました。

  • 国内外投資家の配当課税負担の差異の縮小
  • 未処分利益課税、配当税額控除等の税計算の複雑さの解消

台湾の個人投資家が受領する配当金は総合課税により他の所得と合算され、累進課税による高い税率が適用されていました。一方で国外投資家である非居住者が受領する配当金は一定の源泉税率の適用により税額は抑えられていました。そのため国内投資家から税負担の差異への不満が多くありました。

また、法人に対する法人税課税及び未処分利益課税に関して、その後の配当金受領時の税額控除を認め、両税合一という二重課税の排除を目的とした制度があったものの、税制改正を重ねた結果、複雑な計算になっていました。

以下、改正に関連する台湾における法人課税制度の概要を説明するとともに、税制改正の内容及び、台湾子会社を有する日本企業が留意すべき点を解説します。

II.両税合一制度と未処分利益課税

1.両税合一制度の目的

1997年以前は会社等の営利事業者の所得と、当該営利事業へ投資した株主が受け取る配当所得は、独立した別の所得として扱われていました。そのため、営利事業者は法人税を納め、一方で配当を受けた株主が配当課税を受けるという二重課税の状態になっていました。こうした二重課税の解消を目的として、1998年1月1日より、営利事業所得と配当所得を一体として考える両税合一制度が導入されました。

2.未処分利益課税の目的

両税合一制度と同時に導入された未処分利益課税は、会社等の営利事業者が獲得した利益のうち、配当等により利益処分された額の残額、すなわち留保した利益に対して10%の追加課税を行うものです。この課税の趣旨は、法人税が課税されない株式譲渡益等への課税の補足や、高所得株主の配当税負担回避の防止が目的と言われています。

未処分利益に対する追加所得税額10%は、その後の配当時に、国内個人株主においては株主控除可能税額として一定の控除が認められ、非居住者株主においては配当時の源泉徴収税額からの追加所得税額の税額控除が認められていました。

3.未処分利益追加所得税額の会計処理

当該10%追加所得税額は両税合一の制度においては株主の負担すべき税金の前払いと考える事ができますが、当該税額は当該会社の損益計算書上の法人税費用として計上されます。

また、その計上年度は台湾における会計基準では、公開会社向けのT-IFRS、非公開会社向けの企業会計準則(EAS)ともに当該利益を計上した事業年度ではなく、当該利益処分を決議する年度、すなわち利益計上の翌年度の法人税費用として計上されます。なお、IFRSにおいては利益計上年度に見積計上することが必要です。

4.2015年及び2010年税制改正による影響

未処分利益課税及び両税合一制度は二重課税排除という考え方においてはある程度理論的な制度でした。しかし2015年度の税制改正において、国内個人株主における税額控除及び非居住者株主における配当源泉税からの控除額がともに半額までしか認められなくなりました。この時点で二重課税が完全には排除されない制度になりました。

また、その前の2010年税制改正においては法人税の税率が25%から17%に引下げられました。そのため、2018年改正前時点において株主控除可能税額の計算を行うために、配当の源泉を以下の4つに分ける必要がありました。

  • 両税合一適用前の剰余金
  • 両税合一適用後税率25%で法人税課税を受けた剰余金
  • 17%法人税課税及び未処分利益課税納付済の剰余金
  • 17%法人税課税及び未処分利益課税未了の剰余金

このように、株主控除可能税額の計算が非常に複雑なものとなっていたことも、今回改正の1つの要因となりました。

5.台湾における近年の税制改正の歴史

上記の通り1998年の両税合一及び未処分利益課税の適用から台湾の近年の税制改正がありますが、その歴史を纏めると図表1の通りです。

図表1 近年の税制改正の経緯

図表1 近年の税制改正の経緯

III.改正内容

1.法人への影響

法人への影響は主として次の3つに分ける事が出来ます。

  • 営利事業所得税(法人税)率の引上げ
  • 未処分利益課税の変更
  • 非居住者株主への配当に関する源泉税率の引上げ

なお、3つ目の配当に関する源泉税率の引上げに関しては正確には今回の2018年2月に公布された改正所得税法に含まれるものではなく、2017年12月に財政部より公布された各種所得源泉税率基準の改正に基づくものです。この改正も今回の税制改正の趣旨に基づくものですので合わせて説明します。


(1)営利事業所得税率の引上げ

2018年1月1日以降に開始する事業年度の法人税の税率が従来の
17%の税率から20%に引き上げられます。中小企業への配慮として、
課税所得額50万台湾元(約180万円)未満の会社に対しては、段階的に3年かけて1%ずつ引き上げる経過処置が講じられています。


(2)未処分利益課税の変更

改正前において未処分利益に対して10%追加課税がなされ、日本親会社等の非居住者株主においては配当時の源泉徴収税額から一定の控除が認められていましたが、改正により2018年1月1日以降に開始する事業年度利益の未処分金額に対する税率が5%に引き下げられるとともに、非居住者株主の配当時の源泉徴収税額からの控除が廃止されました。

  • 未処分利益課税の税率の10%から5%への引下げ
  • 非居住者株主への配当時の源泉徴収税額からの控除の廃止

法人税率の引上げと未処分利益課税の変更を合わせると、利益計上後に配当を留保する場合の法人税及び未処分利益課税の合計負担税率は25.3%から24%に減少(図表2参照)するため、台湾財政部では当該改正は租税公平を考慮した社内留保が必要な特に中小及び新興企業に有利な制度であると説明しています。

図表2 法人税及び未処分利益課税の総税負担

現行 比較表 改正後
100 税前利益 100
17 法人税(17% → 20%) 20
8.3 未処分利益課税(10% → 5%) 4
25.3 総税負担 24

(3)非居住者の配当源泉税率の変更

非居住者に対する配当金支払の際の源泉税率が20%から21%に引き上げられました。これは改正趣旨である国内外投資家の配当金税負担の差異の縮小を目的として、国外投資家である非居住者の配当金税負担を増加させるものです。

なお、日本と台湾の間には2017年1月1日より日台租税協定(通称)が適用されています。租税協定は国内法に優先されるため、日本親会社に対する配当金の送金に関しては租税協定に基づく源泉税の上限税率10%を継続的に適用することが出来ます。そのため、日本親会社に対する配当金に関しては必要な手続をする事により、当該源泉税率変更の影響を受けません。


(4)適用時期

今回の改正の各項目の適用時期は図表3の通りです。

図表3 法人税への影響項目の適用時期

項目 現行 改正後 適用時期
法人税率 17% 20% 2018年度
未処分利益に対する
追加所得税率
10% 5% 2018年度
(非居住者)
配当源泉税からの
未処分利益課税税額控除
半額 廃止 2019年1月1日
(非居住者)
配当源泉税率
20% 21% 2018年1月1日

この中で注意が必要な項目は非居住者への配当時の配当源泉税からの未処分利益課税税額控除の廃止時期です。2019年1月1日適用とされているため、過去に未処分利益課税納付済の剰余金の配当に関しては、2018年12月31日までの配当送金であれば、源泉徴収税額からの控除が利用できます。

また未処分利益に対する追加所得税の税率変更は2018年度利益からとされているため、2018年中に行う2017年度利益処分の決議において配当を留保する場合は、引続き10%の税率で追加課税されるとともに、その後の控除の機会はありません。

2.個人への影響

個人への影響は主として次の3つに分ける事が出来ます。

  • 居住者個人株主への配当課税方法の変更
  • 個人所得税の最高税率の引下げ
  • 個人所得税の各種所得控除の引上げ


(1)国内個人株主への配当課税の変更

両税合一制度による、居住者個人株主の配当所得の株主控除可能税額が廃止されました。また、改正前において配当所得は個人総合所得税計算に含まれて総合課税を受けていたため、累進課税による高い税率が適用されているという批判に対応し、改正後においては以下の2つの方法から有利な方を選択できることになりま
した。

(配当課税)
方法1:総合課税+配当税額控除
配当控除額は配当所得の8.5%(申告毎に上限8万元)
方法2:分離課税 税率28%


この結果、高所得者においては方法2の分離課税を選択する事ができるようになったため、累進課税による高い税率が適用される事を避ける事ができるようになりました。


(2)個人所得税の最高税率の引下げ

2010年の税制改正より約1,000万台湾元(約3,600万円)以上の所得に対し、個人所得税の最高税率45%が適用されていましたが、今回の改正により45%の最高税率が廃止され、最高税率が40%に引き下げられました。台湾財政部では最高税率の引下げにより、優秀な人材を台湾に引きとめ、国際競争力を高める事を目指すと説明しています。


(3)個人所得税の各種所得控除の引上げ

個人所得算定時の所得控除項目がそれぞれ引き上げられました。

(控除額引上げ)

  • 標準控除 9万台湾元→12万台湾元
  • 給与所得控除 12.8万台湾元→20万台湾元
  • 障碍者控除 12.8万台湾元→20万台湾元
  • 就学前幼児童特別控除 2.5万台湾元→12万台湾元


台湾財政部ではこれらの個人所得税減税により中低所得の特に給与所得者の負担を軽減し、可処分所得を増やし、消費を刺激する事を目指すと説明しています。


(4)適用時期

個人への影響項目は、株主控除可能税額の廃止を含め、全て2018年度の所得から適用されます。

IV.日系台湾企業における留意事項

1.法人税率変更に対する対応

2018年度以降の予算や計画は、20%の法人税率を前提に立案する必要があります。また、会計処理においては総統による公布日である2018年2月7日以後の決算における税効果会計は、引上げ後の20%の税率を適用し計算する必要があります。

2.2018年における配当方針の検討

未処分利益に対する納付追加所得税額の配当時の源泉税額からの半額控除が2019年1月1日に廃止されるため、当該制度を利用する場合は2018年12月31日までの配当送金が必要です。また、2017年度利益の未処分額については引続き10%の税率で追加課税されるとともに、その後の控除の機会はありません。日系台湾企業においては改正内容をよく理解したうえで2018年中の配当額を決めることが必要です。

3.株式配当

配当資金がない場合には、株式配当の利用も一案です。これは、未処分利益を資本金へ繰入るいわゆる無償増資です。株式配当の場合にも、配当額(資本金への繰入額)が源泉税の対象になり、その際に納付済追加所得税の半額控除を受けることが出来ます。利益処分を全て株式配当にすると源泉税額を逆に株主から受領して納付する必要があるため、株式配当と現金配当の抱合せも可能です。

4.台湾法人の配当時の留意事項

未処分利益課税の税率が引き下げられますが、廃止されるわけではありませんので、台湾の税制を考慮すると当期利益については、法定準備金控除後の配当可能額を全て配当するのが、税務上最も有利な配当方針になっています。

また、未処分利益課税の計算に影響があるため、台湾企業の配当決議の際には、配当金額のみではなく、その利益を計上した年度についても明確に配当決議に記載をする必要があります。

執筆者

KPMG台湾
パートナー 友野 浩司
シニアマネジャー 横塚 正樹

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