スタートアップ思考から学ぶ - 戦略的市場で成長するためには グローバル消費財流通企業 エグゼクティブ トップ・オブ・マインド調査2017

本稿では、KPMGとグローバルな消費財流通業界ネットワークの共同調査である、グローバル消費財流通企業エグゼクティブ トップ・オブ・マインド調査2017の内容をご紹介します。

本稿では、KPMGとグローバルな消費財流通業界ネットワークの共同調査である、グローバル消費財流通企業エグゼクティブ トップ・オブ・マインド調査2017の内容をご紹介します。

ハイライト

本稿では、2017年10月に日本語訳が発行された、KPMGとグローバルな消費財流通業界ネットワークであるThe Consumer Goods Forumの年次共同調査であるグローバル消費財流通企業エグゼクティブ トップ・オブ・マインド調査2017「スタートアップ思考から学ぶ - 破壊的市場で成長するためには」の内容をご紹介します。5回目を迎えた本調査は、世界31ヵ国に本社を置く企業の合計526人のエグゼクティブに対する電話およびオンラインによる調査結果をまとめており、グローバル消費財流通企業11社*のCEOの独占インタビューも掲載しています。


Sainsbury’s、Yum! Brands、Grupo Padrao、PepsiCo、Walgreens Boots Alliance、Metro AG、Danone、Dangote Group、L'Oreal Consumer Products、花王、Grupo Bimbo

ポイント

本調査では、3つの変革:地理的要因、顧客層、テクノロジーの変革に適応するために、以下の5点が鍵であるとし、それぞれにおけるインサイトと先進的な事例・アクションをご紹介しています。企業規模が大きいほど変革への対応が難しくなる一方、イノベーションのペースをリードする企業にとっては、真の事業機会が存在すると言えます。
 

  • カスタマー・セントリック思考を徹底する
  • 消費者行動を捉える
  • 需要主導型サプライチェーンに見直す
  • オートメーションやテクノロジーを活用する
  • 破壊に向き合う


本稿に記載されている先進事例は、すべて「Think like a start-upスタートアップ思考から学ぶ破壊的市場で成長するにはグローバル消費財流通企業エグゼクティブ トップ・オブ・マインド調査2017」から引用したものです。

I.始めに~変革は間近に

3つの変革が迫っています。1つ目は地理的要因の変革:2030年までに、中国では10億人、インドでは5億人の消費者が見込まれています。2つ目は顧客層の変革:今日、デジタル世代の消費者がオンライン販売を活発に利用しています。「Do It For Me(自分の代わりに行ってくれるサービスを求める)」世代は、高い料金を支払ってでも、効果的かつ効率的にサービスを受けたいと考えます。3つ目はテクノロジーの変革:スマートフォンの時代には、顧客が買いたいモノを買いたいときに確実に買うことができる、ということが重要です。これらの変革に適応するために、「カスタマー・セントリック思考」、「消費者行動」、「需要主導型サプライチェーン」、「オートメーション」、「破壊」への対応が鍵となります。このことは、年間6%以上の成長率を達成している35%の調査対象企業(以下「高成長企業」という)に以下の共通点があることからも明らかです。
 

  • 35%が消費者の信頼とロイヤルティを最優先項目にあげている
  • 47%が顧客体験が極めて重要と考えている
  • 43%がサプライチェーン全体における完全な統合を実施
  • 69%が消費者の行動と嗜好を予測するためにデータ分析を有効活用
  • 39%が新規参入者との競合を業界最大の破壊要因とみなしている


業界のリーダーたちがどのようにインサイトをアクションに変えているかを、以降において概観します。

II.カスタマー・セントリック思考を徹底する

以下の7項目以上で優れている企業は、カスタマー・セントリック企業と言えます。
 

  • ビジネスパートナーやサプライヤーと協力する
  • イノベーションやコラボレーションという文化を取り入れる
  • エンドユーザー/エンド顧客と個別に交流する
  • ソーシャルメディアを活用して自社ブランドのプロモーションや消費者との交流を行う
  • 事業全般においてデジタル化を推進する
  • 敏捷な需要主導型のサプライチェーンを持っている
  • 適切なテクノロジーに投資する
  • 説得力のある顧客体験を提供する
  • 流通チャネル全体で効果的な価格戦略を採用している
  • データ分析を活用して消費者の嗜好・行動を予測する

1.インサイト

企業のカスタマー・セントリック思考の程度と成長の速度には明確な関連性があります。カスタマー・セントリック企業の59%が6%増の成長率を達成していました(そうでない企業では31%にとどまります)。カスタマー・セントリックのビジネスを確立することで、事業の領域、やるべきこと、勝利を得る方法を決定し、ステークホルダーが期待する成長を達成することが可能となります。
 

  • 高成長企業の52%が顧客の信頼とロイヤルティは事業の成功に重要であると回答
  • カスタマー・セントリック企業は収益の44%をオンライン販売から得ていると回答
  • 調査対象企業の68%が全チャネルを通じて一貫性のあるシームレスな顧客体験を提供していると考えている

2.アクション

顧客体験のシームレスな一貫性をテストすることが重要です。適切な顧客体験を提供していない企業は収益成長の機会を失うことになります。カスタマー・セントリック企業はソーシャルリスニングに投資し、消費者やインフルエンサーから創造やイノベーションのために協力を得ています。さらに、真のカスタマー・セントリック企業は、顧客が使用している販売チャネルにとらわれず、顧客のニーズを満たすために外部のパートナーと連携します。
 

先進事例

  • L’Orealは、2010年にeコマースを立ち上げ、2016年には同売上33%増を達成
  • Unileverはインド子会社の幹部が農村部で1年のうち1ヵ月を過ごすことで、低価格の浄水器や個包装の衛生用品などイノベーティブな商品を開発

III.消費者行動を捉える

ミレニアル世代が重要な顧客層となり、消費者の嗜好を予測することはこれまで以上に困難となっています。人口構造の確実性が失われ、テクノロジーやライフスタイルによって購買習慣が変化する中、製造業や小売業は戦略を考え直す必要に迫られています。

1.インサイト

  • 調査対象企業の38%は、ブランドロイヤルティの低下が最も破壊的な消費者トレンドの1つであると回答
  • 中国企業の39%は、消費者の関心が持続する期間が短くなっていることを破壊要因の1位に挙げている
  • 調査対象企業の34%は、顧客体験のパーソナライズ化が最優先項目であると回答
  • アジア太平洋企業の3分の1が、ヘルスケア&ウェルネスが破壊要因であると回答

2.アクション

顧客にとって適切なパーソナライズ化のレベルを把握し提供することが重要です。また、自社ブランドを評価する、すなわち、何を象徴しているか?消費者はそれを知っているか?社会または環境上の目的があるか?顧客はそれに関心を持っているか?を理解する必要があります。企業は、人工知能の有無にかかわらず、データ分析ツールを利用して実行可能なインサイトを開発し、トレンドを予測することができます。消費財市場における変化の規模とスピードに最初に対応した企業はそれにより恩恵を得ることができます。
 

先進事例

  • Warby Parkerは95ドルでメガネフレームを販売し宅配。一点売れる度に非営利団体に寄付、開発途上国の人々に眼鏡を提供。同社の資産規模は12億米ドルと評価されている
  • PepsiCoは、フェイルファスト(早く失敗する)を実践。開発製品をいち早く市場に出し、フィードバックから学び適応・向上

IV.需要主導型サプライチェーンに見直す

顧客体験を向上させ、事業を成長させる形で市場に製品を届けること、サプライチェーンの完全統合化には、イノベーションとビジョンが必要です。本調査により、企業が自社製品を開発、製造、納品するスピードや効率性に不満を感じていることが明らかになっています。こうした懸念は、あまりに多くのサプライチェーンが今なお需要主導ではなく製品主導であり、企業の戦略的目標に即していない事実を反映したものです。

1.インサイト

  • 調査対象企業の36%が流通スピードと効率性の向上が重要
    31%が製造プロセスを同様に向上させたいと考えている
  • 調査対象企業のわずか33%が、サプライチェーンを統合していると回答
  • 調査対象企業の68%が、2019年までに反復作業を行わせるためにロボットを使う予定であると回答

2.アクション

本当の意味で需要主導型サプライチェーンを構築することは、これまで以上に喫急のタスクとなっています。たとえば、中国では、サプライチェーンをソーシャルメディアアプリに組み入れない企業は売上を失う可能性があります。戦略的に新しいテクノロジーを利用することで、サプライチェーンを成長のドライバーとすることができます。市場にアクセスするスピードを向上し、コンセプトから配送までのサイクルを短縮して急激な消費者需要の変化に対応したいと望む企業にとっては、完全にサプライチェーンを統合することは重要な鍵となります。
 

先進事例

  • Metro AGは25ヵ国で現地チームに権限移譲。現地顧客に合わせたビジネスを展開(コンプライアンス、財務諸表、帳簿、食品の安全性、品質、ブランド以外は現地の自由)
  • ユニクロは、デザインから納品までのサイクルを13日とし、2021年までに70%の収益増を目指すという計画を発表。消費者直販を推進するため、業務オートメーション化、包装から納品までの商品追跡、納品期限短縮、売上パターンを予想するための人工知能の採用を計画

V.オートメーションやテクノロジーを活用する

人工知能、モバイル・コンピューティング、クラウド・コンピューティング、IoT、ロボティクスにより、企業の製品開発・製造・販売の形が変わろうとしています。これは変革の始まりであり、数年後にはロボットが業界全体で採用され、コスト基盤に大きな影響を及ぼすことになるでしょう。新しいテクノロジーを取り入れることはビジネスの成長にとって重要ですが、どのように採用し実行するかによって、企業の業績に大きな差が生じます。

1.インサイト

  • 調査対象企業10社のうち4社が、顧客サービスの改善のために人工知能を使用しているか、使用する予定であると回答
  • 調査対象企業の64%が、2019年までに反復作業を行わせるためにロボットを使う予定であると回答
  • 調査対象企業のわずか36%が、需要予測のために使う人工知能に投資を行っている

2.アクション

投資する前に、自ら問いかけてみてください-人工知能やロボットを扱う能力があるか、またはそうした能力を取得する必要があるか?こうしたテクノロジーは戦略やビジネスモデルを変えてしまうか?また、人工知能の使用を一度始めると、全部門が必要とするようになるため、人工知能が最も影響を与える分野に焦点を当てることが求められます。人工知能の潜在性を活用しない企業は、運営費や顧客サービスの点で後れを取るので、取り残されないためにも、人工知能の活用は必然となるでしょう。
 

先進事例

  • Ocado(英国オンライン食品小売業者)は、大量のロボットを使用することで、ぎっしり詰め込まれた3次元グリッドから顧客用のクレートに商品を集める時間を2時間から15分に短縮
  • PepsiCoは、最先端のロボットや自律走行車を採用し、コスト削減、生産性向上、効率性改善等を実現。機械を使って24時間操業し、人材やコストを最も価値のある製品や製造にシフト

VI.破壊に向き合う

米国では、オンライン販売の増加影響で、2017年末までに8,600の実店舗の閉鎖が見込まれています。破壊にどう備えるか?破壊は事業機会をもたらすか? 地理、顧客層、テクノロジーという3つの変革に同時に直面している現在、成長する消費財流通企業は、破壊を恐れるのではなく、先導することを学びつつあります。

1.インサイト

  • 調査対象企業の過半数が、消費者行動の変化が市場変動の最大の原因であると回答
  • 調査対象企業の42%が、カスタマー・セントリック企業10社のうち6社が、今後2年間で市場がある程度または大きく変動すると回答
  • 調査対象企業10社のうち4社が、テクノロジーと新規参入企業が市場の変動を誘引していると回答

2.アクション

3つの変革を受け入れ、その影響を戦略、ビジネスモデル、ポートフォリオに反映させます。消費者の嗜好が不明確であるため、現地市場に判断をまかせます。破壊を生き抜く最適な方法は破壊を先導することです。自社を破壊する方法を考え、ベンチャー部門を設立し、これまでと異なる考え方や経営を推進したり、新しいR&D戦略としてのM&A、社内で開発できない専門知識やアイデアを買収したりするケースが増えています。
 

先進事例

  • PepsiCoは、研究開発費を過去5年間で45%増加。カロリー控えめな商品構成にポートフォリオにシフトする戦略を採用
  • General Milsは、動物質を含まない肉製品を開発するために、2009年設立のLAのスタートアップ企業Beyond Meatに投資
  • Campbell Soupは、1.5億ドルの基金を設立し、米オンライン食品ストアのChef’sとの戦略提携として0.1億ドルを投資
  • InBev、Unilever、General Mills、Kellogg’sはすべて、ベンチャー事業部門を持っている

VII.終わりに~成長を達成するためには

高成長企業のうち、84%がデータ分析ツールを顧客セグメンテーションに利用していると回答しています。また、調査対象企業4社のうち3社が今後3年間の収益の10%超を新製品から見込んでいると答えています。このような事業環境下で成長を達成するために、成長を企業文化に取り入れる必要があります。成長は市況によるだけでなく、考え方にも依存し、実際、組織全体の成長を優先項目とする企業は市場をアウトパフォームする傾向にあります。次に、取り扱う商品構成を見直します。急速に変化する市場においては、伝統的な製品よりも適切な製品が優先されます。そして、破壊者になる。敏捷で適切なネットワークを持ち、イノベーションに積極的な企業は、大手グローバル企業であっても、市場を破壊することが可能です。スタートアップ企業である必要がありません。彼らの視点で考えればよいのです。

執筆者

株式会社KPMG FAS
執行役員パートナー 中村 吉伸

KPMG コンサルティング株式会社
パートナー 箕野 博之

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