深化するコーポレートガバナンス改革

本稿では、コーポレートガバナンスを巡る動向を紹介し、取組みを深化させていくためのポイントを解説します。

本稿では、コーポレートガバナンスを巡る動向を紹介し、取組みを深化させていくためのポイントを解説します。

ハイライト

平成26年改正会社法から3年、コーポレートガバナンス・コードの策定・実施から2年が経過しました。企業は、機関投資家との建設的な対話から「気づき」を得て、欧米企業と伍して果敢にリスクテイクを行い、投資・事業再編を進めることにより、収益力を改善し、持続的に成長していくため、コーポレートガバナンスを継続的に深化させていくことが求められています。

本稿では、こうした趣旨を踏まえ、2017年2月23日にKPMGジャパンが主催したセミナーで実施したアンケート、2017年3月10日に経済産業省が公表したCGSレポート等を紹介しながら、コーポレートガバナンスを巡る動向を紹介するとともに、コーポレートガバナンスのあり方について多面的に議論し、取組みを深化させていくためのポイントを解説します。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 企業価値向上のためには、コーポレートガバナンスを有効に機能させるべく取締役会の監督機能の強化が必要である。
  • 各社の事業内容等に応じた取締役会の役割・機能を設定し、取締役を指名すること、取締役会の役割・機能に合致する社外取締役を選任し、選任した社外取締役が期待に沿って活動できる環境を整えること、社外取締役も巻き込んで経営者・CEOのサクセッションプラン(後継者計画)の策定プロセスの透明性を確保することが必要である。
  • 持続的に取締役会の実効性については毎年評価し、課題を抽出し、改善するサイクルを積み重ねることにより自律的に取締役会の実効性を高めることが必要である。

I.企業価値向上のためのガバナンス

コーポレートガバナンスは、企業価値向上の観点から有効に機能しているでしょうか。コーポレートガバナンス・コードへの対応が2周目を迎えても、この問いかけに対し、課題を認識している企業はまだ多いのが現状です(図表1参照)。

コーポレートガバナンスを有効に機能させるためにまずは、取締役会はどうあるべきか、その役割・機能について考える必要があります。それは各社の事業内容や規模等によって異なりますが、我が国企業が競争力や収益力を上げるためには、これまで以上に積極的な投資、事業再編、M&A等を通じリスクテイクできる仕組みが必要であり、企業の意思決定プロセスを監督・監視する仕組みの強化が不可欠です。

図表1 企業価値向上とガバナンスの関連性

II.取締役会の役割・機能

コーポレートガバナンス・コードは、取締役会等の責務について、1.企業戦略等の大きな方向性を示すこと、2.経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと及び3.独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及び、いわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うことをはじめとする役割・責務を適切に果たすべきであるとしています(基本原則4)。

いわゆる「モニタリングモデル」とは、取締役会の主たる役割を3.の監督中心とする考え方ですが、いくら企業の意思決定プロセスを監督・監視する仕組みの強化が不可欠だといっても、すべての会社がモニタリングモデルへ移行しなければならないわけではなく、ましてや機関設計の変更が必須なわけでもありません。

2017年3月10日に経済産業省のCGS研究会(コーポレートガバナンス・システム研究会)が公表した、CGS研究会報告書「実効的なガバナンス体制の構築・運用」(CGSレポート)は、会社法上のいずれの機関設計であるかにかかわらず、取締役会の役割・機能を再検討するに当たって、1.経営において社長・CEOに権限を集中させたいのか否か、2.取締役会でなるべく個別の意思決定まで行いたいのか否かという視点から検討することを提案しています。

取締役会の議案をどうするかといった観点は従来も検討されてきたポイントですが、これに、経営において社長・CEOに権限を集中させたいのか、つまり経営判断の迅速性という観点を併せた4象限で考えるという点に特徴がみられます(図表2参照)。そのうえで、いずれの象限を目指すとしても、監督機能を高める仕組みはそれぞれ必要であるとしています。まずは、こうした視点等も参考に、会社が取締役会の役割・機能としてどのようなものを目指すべきかを明らかにすることは有意義です。

 

図表2 取締役会の役割・機能に関する検討の視点

(A象限)

  • 個別の業務執行の決定が少ない
  • CEO権限は分権型

(C象限)

  • 個別の業務執行の決定が少ない
  • CEO権限は集権型

(B象限)

  • 個別の業務執行の決定が多い
  • CEO権限は分権型

(D象限)

  • 個別の業務執行の決定が多い
  • CEO権限は集権型


出所:経済産業省CGSレポートに基づき筆者作成。

III.社外取締役の活用の在り方

取締役会の役割・機能を設定したならば、取締役会の構成員をどうするかが問題となります。たとえば、取締役会で出される多様な議題を多面的に議論する、内部では得られない知見や専門知識を得る、内向きになりがちな議論に対し、独立・客観的な立場からの新しい視点を入れる等である。一般的には、多様な属性を持った社外の人材を揃えることが望ましいといえ
ます。

外形的には社外取締役の活用は進んできており、2016年には2名以上の独立社外取締役を選任している企業が80%近くになってきていますが1、次のステップとして、3分の1以上といったことも視野に入ってきます。社外取締役の人材プールに現役の経営者をもっと入れてもよいのではないか、あるいは元社長が相談役として会社に残るより社外取締役となってはどうかといった議論もされています。もっとも社外取締役の数を確保することが目的ではなく、各社の取締役会の役割・機能に合致する資質・背景を持った社外取締役を選任することが重要であり(図表5参照)、選任した社外取締役が、期待に沿って活動できるような環境を整えることが何より重要です。

具体的には、取締役会の数日前に事前に資料を提供する、取締役会の前に議案の説明をする、工場、研究所、子会社等の各拠点の現場視察の場を設ける、監査役も含め社外者だけのコミュニケーションを確保するための会議体を設ける等の例も増えてきており、こうした取組みもあってか、社外取締役が取締役会に貢献していると考えている企業は相当程度に達しています(図表3参照)。

また、その先には、社外取締役が期待したような役割を果たしているか、その評価を踏まえて、再任・解任等の検討といったプロセスが必要になります。先のCGSレポートでは、社外取締役の役割を考えるための9つのステップを提案しており(図表4参照)、参考になります。

図表3 社外取締役による取締役会への貢献

図表4 社外取締役の役割を考えるための9つのステップ

ステップ 検討事項 場面
1 自社の取締役会の在り方を検討する。 社外取締役の要否等や、求める社外取締役像を検討する場面
2 社外取締役に期待する役割・機能を明確にする。
3 役割・機能に合致する資質・背景を検討する。
4 求める資質・背景を有する社外取締役候補者を探す。 社外取締役を探し、就任を依頼する場面
5 社外取締役候補者の適格性をチェックする。
6 社外取締役の就任条件(報酬等)について検討する。
7 就任した社外取締役が実効的に活動できるようサポートする。 社外取締役が就任し、企業で活躍してもらう場面
8 社外取締役が、期待した役割を果たしているか、評価する。 社外取締役を評価し、選解任を検討する場面
9 評価結果を踏まえて、再任・解任等を検討する。

出所:CGS レポート20頁より抜粋

IV.サクセッションプランの策定

社外取締役の活用は進みつつありますが、経営陣の指名(サクセッションプラン)への関与についてはまだこれからといった状況です。サクセッションプランについて、取締役会または指名委員会ではほとんど議論していないか、議論はしても、納得感が得られているか分からないというように、この分野についてはまだ手探りの状況にあります(図表5参照)。

図表5 社外取締役による取締役会への貢献

コーポレートガバナンス・コードによれば、サクセッションプラン(後継者計画)は、取締役会が、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ適切に監督を行うべきとされています(補充原則4-1(3))。また、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきであるとしています(補充原則4-10(1))。

次期社長・CEOの選定は複数の候補者から行えるよう、早期の段階から育成することが重要であり、また、社外取締役を巻き込みながら、取締役会が候補者の資質を見極められるよう十分に時間をかけることが重要です。

また、取締役の指名に関しては、取締役会に求める役割と、その実現のための構成(多様性)を指名方針の策定の際に検討すべきです。特に、CGSレポートで示されているマトリックス(図表6参照)を活用することも一案です。

図表6 取締役に求める資質とそれを満たす取締役の検討方法の例

図表6 取締役に求める資質とそれを満たす取締役の検討方法の例

出所:CGS レポート27頁より抜粋

V.取締役会の実効性評価

取締役会の実効性評価の取組みも進んできています。取締役会の実効性評価の実施により、取締役会が対処すべき課題が明らかになったとポジティブな反応をする企業も出てきています(図表7参照)。

図表7 取締役会の実効性評価

取締役会の在り方を設定し、社外取締役も巻き込んでサクセッションプランの策定プロセスを透明化して、経営者・CEOの選定、取締役を指名します。経営者・CEOは監督機能が強化された取締役会のもと、困難な課題に果敢に取り組み、企業を変革していきます。

取締役会評価により、こうした一連のプロセスについて取締役会の構成員等が自ら分析・評価し、そこから課題を抽出し、次年度にその課題解決に向けた改善を行います。企業価値向上という目標に向かって、こうしたサイクルを毎年積み重ねながら、自律的に取締役会の実効性を高めていくことが重要です。

執筆者

KPMGジャパン
コーポレートガバナンス センター・オブ・エクセレンス(CoE)
パートナー 和久 友子

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