気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)によるPhase II Report

2016年12月14日、気候関連財務情報開示タスクフォースは、Phase II Reportを公表しました。

2016年12月14日、気候関連財務情報開示タスクフォースは、Phase II Reportを公表しました。

TCFDは、2015年12月4日金融安定理事会(Financial Stability Board:FSB)により設立された、金融の安定性という文脈から気候変動問題が議論される初めての国際的なイニシアチブであり、KPMGからもサステナビリティ報告・保証のグローバルヘッドであるヴィム・バーテルズが参加しています。
TCFDは、Phase I ReportとPhase II Reportの2つの報告書をFSBに対して提出することになっており、今回のPhase II Reportは2016年3月31日に提出されたPhase I Reportに続くものです。Phase II Reportは、公表後、60日のパブリックコンサルテーションを経て最終化され、アップデートされたレポートが2017年6月に提出される見込みです。

Phase II Report

Phase I Reportでは、気候変動情報開示の現状の概観とともに、Phase II Reportの目的と範囲が提示されていましたが※1、Phase II Reportでは、企業や金融機関が気候変動に関連する財務リスクや潜在的な影響に関する首尾一貫した情報を開示するための明確な提言が示されています。この提言は、制度開示書類(メインストリーム・レポート)における自主的な開示に対して適用されることが想定されています。

 

※1 気候変動関連の財務情報開示に関するタスクフォースによるPhase I Report

提言の主な特徴

  • 全ての組織が採用可能である。
  • 財務報告に含まれる。
  • 決定を行う際に有益な、財務上の影響に関して先見性のある情報を提供するように作られている。
  • より低炭素型の経済への移行に関連したリスクと機会に強い重点を置く。

提言の構成

この提言は、組織運営における4つの中核的要素から構成され、各要素について投資家等の理解に有用な「推奨される情報開示」により報告されることが望まれています。

中核的要素 推奨される開示内容
ガバナンス 気候関連のリスクと機会に係る組織のガバナンスを開示する。 a)気候関連のリスクと機会についての、取締役会による監視体制を説明する。
b)気候関連のリスクと機会を評価・管理する上での経営者の役割を説明する。
戦略 気候関連のリスクと機会がもたらす組織のビジネス、戦略、財務計画への実際の及び潜在的な影響を開示する。 a)組織が識別した、短期・中期・長期の気候関連のリスクと機会を説明する。
b)気候関連のリスクと機会が組織のビジネス、戦略及び財務計画に及ぼす影響を説明する。
c)組織のビジネス、戦略及び財務計画に対する2℃シナリオなどのさまざまなシナリオの影響を説明する。
リスク管理 気候関連リスクについて、組織がどのように識別、評価、及び管理しているかについて開示する。 a)組織が気候関連リスクを識別及び評価するプロセスを説明する。b)組織が気候関連リスクを管理するプロセスを説明する。c)組織が気候関連リスクを識別・評価及び管理するプロセスが、組織の総合的リスク管理にどのように統合されているかについて説明する。
指標と目標 気候関連のリスクと機会を評価し管理する際に使用する指標と目標を開示する。 a)組織が、自らの戦略とリスク管理プロセスに即して、気候関連のリスクと機会を評価する際に用いる指標を開示する。
b)Scope 1、Scope 2及び当てはまる場合はScope 3の温室効果ガス(GHG)排出量と、その関連リスクを説明する。
c)組織が気候関連リスクと機会を管理するために用いる目標、及び目標に対する実績を開示する。

「推奨される情報開示」については、2つのガイダンスが用意されていて、すべての組織を対象としているガイダンス(Guidance for All Sectors)および、金融機関や気候変動に影響を受けやすい特定の組織を対象としているガイダンス(Supplemental Guidance for Certain Sectors)があります。当2つのガイダンスの詳細内容は、別冊付録「Implementing the Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosures」に記載されていて、提言の実施に際しての指針となるものです。また、中核的要素の一つである戦略についての報告における、2℃シナリオを含む複数の異なるシナリオ分析を実施するための補足資料として、別冊付録「The Use of Scenario Analysis in Disclosure of Climate-Related Risks and Opportunities」において気候関連シナリオの種類やシナリオ分析の手法等が説明されています。

中核的要素の「推奨される開示内容」と他のフレームワークとの対照表

「推奨される開示内容」は、気候関連情報に関連する他の開示フレームワークで求められている内容と同様のものがあるものの、戦略c)のシナリオ分析、リスク管理b)の気候関連リスクの管理プロセスについてはTCFDの提言特有のものとなっています。

  推奨される開示内容 CDP Climate Change Questionnaire 2016 GRI G4 Sustainability Reporting Guidelines CDSB Climate Change Reporting Framework
ガバナンス a)
b)    
戦略 a)    
b)
c)      
リスク管理 a)  
b)      
c)    
指標と目標 a)
b)
c)    

○:他のフレームワークの中で「推奨される開示内容」と同様の開示要求事項があるもの(他のフレームワークにおける詳細な対応項目については「Implementing the Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosures」のP.14を参照のこと)

提言適用による便益

TCFDは、提言には次のような便益があると認識しています。

  • 即時に採用し、進化していく方法にも十分柔軟に順応できる基盤となる。
  • 取締役会及び経営者上層部による気候関連問題への関与を促進する。
  • シナリオ分析を通じて、問題の「未来」的な性質を現在にもちこむ。
  • 金融セクターが被る気候関連リスクの影響の理解を助ける。
  • 財務上の影響に関して、決定に役立ち、先を見通した情報を得るようにデザインされている。

提言適用への行程

TCFDは、最終レポートが公表された後の5年間で以下のような行程を辿り、適用する組織が増加していくことを予測しています。

  1. TCFDの提言以外の他のフレームワークに基づき報告を行っている企業が、当提言を適用する。また報告を行っていない企業は、気候に関する課題について検討する。
  2. 組織が財務報告で開示を始める。
  3. 情報利用者や開示機関が、 気候に関する課題をビジネスの本流や投資の判断材料として認識する。
  4. 適用が広がり、測定基準やシナリオ分析等情報開示手法の発展が進み、十分に情報が利用される。
  5. 市場参加者に対して、より完成度が高く、首尾一貫し、比較可能性のある情報が提供されるとともに、透明性が高まり、気候に関するリスクと機会の価格がより適切に決定される。
  6. 財務システムにおける炭素関連資産の保有度合や、財務システムが気候に関するリスクにさらされている度合についての幅広い理解が得られる。

 

Phase II Reportは、60日のパブリックコンサルテーションを経て最終化され、アップデートされたレポートがFSBへ2017年6月に提出される見込みです。TCFDは提言が幅広く適用されることを期待しており、FSBやG20の各国が提言の適用を促すために必要な支援を行うこととしています。
気候関連の財務報告は現在発展初期の段階であり、TCFDの提言は、気候関連のリスクと機会についての情報開示の指針となるとともに、それらを適切に評価する投資家等の能力を向上させる基盤となるものです。今後、低炭素社会への転換に伴って、情報提供者に対しては気候変動に関するさらなる情報開示の拡充、情報利用者に対しては当該情報の利用手法の発展が求められていると考えられます。
日本企業による気候関連情報の開示はこれまで、温室効果ガスの排出量の実績や目標に関する情報が主であり、自主的な開示において、2°Cシナリオの影響の分析、気候関連のリスクや機会、それらに係るガバナンスなどに関する情報が開示されることは稀でした。しかし、TCFDが提言するように、「より低炭素型の経済への移行に関連したリスクと機会」に関する情報を市場が求めているとすれば、今後は、企業には、より気候変動に関するシナリオ分析やリスク評価をより体系的に行うとともに、より市場の情報ニーズに沿った情報開示を行うことが求められると考えられます。

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