FASB - ASU案「ヘッジ活動に関する会計処理の限定的改善」を公表

Defining Issues 16-31 - FASBは、2016年9月8日にASU案「ヘッジ活動に関する会計処理の限定的改善」を公表しました。

FASBは、2016年9月8日にASU案「ヘッジ活動に関する会計処理の限定的改善」を公表しました。

ハイライト

FASBが公表した会計基準書アップデート(Accounting Standards Update, ASU)案は、企業にヘッジ会計とリスク管理活動を整合させる機会をさらに提供することになり、ヘッジ会計の適用に伴うコスト及び労力を削減させる可能性がある※1

※1 FASB ASU案「ヘッジ活動に関する会計処理の限定的改善」。2016年9月8日。www.fasb.orgより入手可能。

概要

  • ASU案により、有効性の評価、ヘッジの文書化、ショート・カット法(shortcut method)及びクリティカル・ターム・マッチ法(critical terms match method)の適用に関する規定は緩和される。
  • 企業は、非金融資産の購入または売却、あるいは変動利付金融商品を含むキャッシュフロー・ヘッジにおいて、契約上明示された構成要素をヘッジ対象リスクとして指定することが認められる。
  • 企業は、ヘッジの非有効部分を別個に測定して報告する必要がなくなる。
  • 企業は、ベンチマーク金利リスクの公正価値ヘッジにおいて、精緻化された測定技法を選択してヘッジ対象の公正価値変動を決定することができる。

主な影響

  • ASU案の主な影響は以下のとおりである。
    • ASU案は、ヘッジ会計が適格となりうるヘッジ活動の種類を増やすことにより、ヘッジ会計と企業の既存のリスク管理活動を整合させる機会をさらに提供することになる。
    • ASU案は、ヘッジ関係の有効性のモニタリング及びヘッジ会計の適用に伴うコスト及び複雑性を削減させることになる。

リスク要素のヘッジ

ASU案では、受取現金または支払現金に含まれる構成要素の1つのみ(但し、構成要素が受取現金または支払現金より小さい場合に限る)に関連するキャッシュフローの変動性をヘッジ対象リスクとして指定することが、現行のU.S. GAAPよりも多くの場合で認められることになる。

 

契約上明示された構成要素
ASU案では、非金融資産のキャッシュフロー・ヘッジにおいて契約上明示された構成要素に関連するキャッシュフローの変動性を、ヘッジ対象リスクとして指定するために特定の要件を満たすことが求められる。

  • 非金融資産の購入または売却契約は、ヘッジ期間にわたって、契約上明示された構成要素の変化によるキャッシュフローの変動性が生み出されるものでなければならない。
  • 明示された価格の構成要素はすべて、特定の市場の通常の営業活動で非金融資産を購入または売却するコストに関連しなければならない。
  • 明示された価格の構成要素はすべて、契約開始時の市況を反映しなければならない。

非金融ヘッジ対象のキャッシュフロー・ヘッジ

現行のU.S. GAAP
ASU案
キャッシュフローの変動性全体または為替リスクのいずれかをヘッジ対象リスクとして指定することができる。為替リスク以外の価格リスクの構成要素をヘッジ対象とすることはできない。
企業は、非金融項目の購入契約または売却契約において契約上明示された構成要素をヘッジ対象リスクとして指定することができる。例えば、航空会社は、ジェット燃料の購入契約において価格が原油価格の変動に基づいて変わる場合、ジェット燃料の購入契約における原油の構成要素をヘッジ対象リスクとして指定することができる。

KPMGの所見

現行のU.S. GAAPでは、1つ以上の個別のリスクにヘッジ会計を適用できるのは、金融商品のヘッジ及び為替リスクのヘッジの場合に限定されている。しかし、リスク管理の目的では、多くの企業は総額ベースではなく、コモディティの価格リスクを構成要素ベースで管理している。これは、一つには、デリバティブ商品が、購入または売却される非金融項目全体の価格としてではなく、構成要素であるコモディティに関してのみ締結可能な場合が多いからである。非金融項目の予定購入または売却における契約上明示された構成要素をヘッジ対象リスクとして指定することを認めることで、ASU案は、現行のリスク管理戦略にヘッジ会計を適用する機会をさらに提供することになる。

変動利付金融商品のキャッシュフロー・ヘッジ

ASU案では、契約上明示された、ベンチマーク金利ではない変動金利によるキャッシュフローの変動性を、ヘッジ対象リスクとして指定することが認められることになる。

 現行のU.S. GAAP ASU案
変動利付金融商品がベンチマーク金利とみなされない金利に連動する場合、ベンチマークではない指数によるキャッシュフローの変動性のみを、ヘッジ対象リスクとして指定することはできない。企業はキャッシュフローの変動性全体をヘッジすることのみが可能である。 企業は、契約上明示されたすべての変動金利をヘッジ対象リスクとして指定することができる。これにより、変動利付金融商品のヘッジにおいて、ベンチマーク金利の概念は削除される。

認識及び表示に関する変更

ASU案は、ヘッジの非有効部分を別個に測定して報告を求める規定を削除し、損益計算書上の区分について新たなガイダンスを提供している。

現行のU.S. GAAP ASU案
キャッシュフロー・ヘッジ及び純投資ヘッジにおいて、ヘッジ手段の公正価値変動は有効部分(その他の包括利益に計上)と非有効部分(当期純利益に認識)に分解する。 キャッシュフロー・ヘッジ及び純投資ヘッジにおいて、ヘッジ手段の公正価値変動全額をその他の包括利益に計上する。
(キャッシュフロー・ヘッジ及び純投資ヘッジの)その他の包括利益から損益に振り替えた金額、または(公正価値ヘッジの)ヘッジ手段の公正価値変動について、損益計算書上の区分に関する特定のガイダンスはない。 その他の包括利益から損益に振り替えた金額及びヘッジ手段の公正価値変動は、ヘッジ対象の損益に及ぼす影響を表示する科目と同じ損益計算書上の表示科目に計上する。

KPMGの所見

現行のU.S. GAAPでヘッジ会計が適用される場合、ヘッジ手段の公正価値変動は有効部分と非有効部分に分解される。有効部分は、ヘッジ対象が損益に影響を及ぼすタイミングで損益に認識される。一方、非有効部分は、ヘッジ手段ではないデリバティブと同じように会計処理(即時PL認識)される。この結果、非有効部分は、ヘッジ対象が影響を及ぼすのとは異なる報告期間に、異なる財務諸表上の表示科目で損益に影響を及ぼす可能性がある。

ASU案のガイダンスは、ヘッジ手段の公正価値変動全額を、ヘッジのコスト(または便益)とみなすアプローチを採っている。したがって、公正価値変動全額は、ヘッジ対象が損益に影響を及ぼすのと同じ報告期間に同じ表示科目で示されることになる。

財務諸表作成者のコスト及び複雑性の削減

非有効部分の削除
ASU案では、企業はヘッジ手段の有効部分と非有効部分を別個に測定して計上する必要がなくなるため、非有効という概念はU.S. GAAPから削除される。
ただし、FASBはヘッジ会計の適格要件の1つとして、高い有効性の基準を維持することを決定した。

 

ASU案は、以下の変更を含めて、コスト及び複雑性を削減させるための一部簡素化を提案している。

金利リスクの公正価値ヘッジ

現行のU.S. GAAP ASU案
ヘッジ対象リスクに関連するヘッジ対象の公正価値変動は、金融商品に明示された満期日に基づくものである。ヘッジ対象とヘッジ手段のデリバティブの満期日が一致しない場合、ヘッジ会計の適用は非常に困難なものとなりうる。

一部期間のヘッジが認められる。

企業はヘッジ対象リスクに関連するヘッジ対象の公正価値変動を、ヘッジ対象とヘッジ手段であるデリバティブの期間が同一であるとみなして算定することができる。

当初の有効性評価の実施期間の延長

現行のU.S. GAAP ASU案
当初の、将来に向かって行う定量的有効性評価は、ヘッジ指定と同時に実施する。 当初の、将来に向かって行う定量的有効性評価は、ヘッジ指定の後に実施することができる。
ASU案では、当初の有効性評価を完了させなければならない期日の決定において考慮しなければならない複数の異なる日付が含まれているが、すべてのケースにおいて、評価は、次の四半期ごとのヘッジの有効性評価日、またはその前までに行うことが求められる。

事後の有効性評価は定性的に行うことが可能

現行のU.S. GAAP ASU案
事後の有効性評価が求められる場合、その評価は定量的でなければならない。

事後の有効性評価は、定量的または定性的のいずれかの検討により実施することができる。

事後の定性的評価はヘッジ開始時に選択しなければならないが、この時点で企業は、事後の期間において高い有効性が予想されることを合理的に裏付けることができなければならない。

定性的評価は、少なくとも3ヵ月ごとに実施し文書化しなければならない。

事実及び状況の変化によって、企業が定性的に、過去及び今後のヘッジ関係に高い有効性があるといえなくなった場合には、企業はそれ以降、定量的評価の実施を求められる。

 

クリティカル・ターム・マッチ法の適格要件

現行のU.S. GAAP ASU案
クリティカル・ターム・マッチ法を予定取引グループに適用するために満たさなければならない要件には、ヘッジ対象の予定取引がヘッジ手段のデリバティブと同じ時期にかつ同じ場所で行われなければならないことが含まれている。

デリバティブの期日及び予定取引が31日間以内に発生する場合、ヘッジ手段のデリバティブの期日は、ヘッジ対象の予定取引と同時期であるとみなすことができる。

非金融資産の契約上明示された構成要素を指定する場合、企業は重要な契約条項の一致の決定において、場所の相違は無視できる。

ショート・カット法の誤用による誤謬の修正

現行のU.S. GAAP ASU案
企業がショート・カット法を不適切に使用したと判断する場合は、過去に適用したすべての期間におけるヘッジ会計を喪失する。

企業がショート・カット法を不適切に使用したと判断する場合は、以下の両方を満たすことを条件に、過去の期間にヘッジ会計を適用することができる。

定量的手法を用いて評価した場合に、ヘッジ関係の開始時からのヘッジの高い有効性が認められること

ショート・カット法が不適切であることが判明した場合にどの定量的手法を用いるかに関して、ヘッジ関係の開始時に企業が文書化を行っていること

KPMGの所見

゛このASU案に関するコメントの締切りは11月22日である。”

゛2つの公開円卓会議が12月2日に開催される予定である。”

 

特定の要件を満たす場合に、定量的手法を遡及的に適用してヘッジの有効性を評価することを企業に認めることで、ASU案の下では、現行のU.S. GAAPと比較して、ショート・カット法が不適切に適用された場合の誤謬の金額が削減されることになる。この変更によって、誤謬が重要であるとみなされ、過年度の公表された財務諸表が修正再表示される結果となる可能性は低くなる。

FASBは、ヘッジの有効性が高い場合、ヘッジ会計を過年度に適用することは、ヘッジ会計を完全に取り除くように修正再表示を行うよりも、財務諸表利用者にとってより有用な情報を提供するという考え方に基づいてこの変更を行った。ただし、FASBは、ショート・カット法が不適切であることが判明した場合にどの定量的手法を用いるかに関して、ヘッジ関係の開始時に企業が文書化を行わなかった場合は、もし定量的手法を用いたとしたら高い有効性があることが示される場合でも、ヘッジ会計は現行の扱いと同じく取り除かれることを決定した。

適用日及び移行措置

企業は、このASU案を修正遡及適用アプローチを用いて当初適用し、適用日における直近の表示期間の累積その他包括利益及び期首利益剰余金に対する累積的影響額の調整を行う。このASU案は、金利リスクの公正価値ヘッジ及びリスク要素のヘッジ、並びにヘッジの文書化に関連する1回限りの移行の選択について、具体的な移行ガイダンスを提供している。

このASU案は、適用日より前の会計年度の期首に早期適用することが認められる。FASBは、利害関係者からフィードバックを受け取った後に、適用日を決定する予定である。

英語コンテンツ(原文)

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