税効果会計とは、税金の額を適切に期間配分して税引前当期純利益と税金費用を合理的に対応させる会計処理です。
税効果会計を適用しない場合、税引前当期純利益が会計基準に基づき算定されているにもかかわらず、会計上の税引前当期純利益と課税所得に差異がある場合、税引前当期純利益と税金費用が対応しなくなるという問題があります。税効果会計を適用すると、将来の税引前当期純利益に対応する税金費用は、貸借対照表上は繰延税金資産、損益計算書上は法人税等調整額(法人税・住民税及び事業税の下にマイナス表示)として繰延処理され、税金費用を会計上の税引前当期純利益に対応させることが可能となります。
繰延税金資産は、将来の課税所得の発生に伴う法人税等の支払額を減額する効果を有し、会計上は一般に法人税等の前払額に相当するため、資産としての性格を有します。そのため、繰延税金資産の計上は、発生した将来減算一時差異等(会計上の税引前当期純利益と課税所得の差異のうち、将来解消が見込まれるもの)の解消によって将来の納付税額の減額が認められるかどうか(これを「繰延税金資産の回収可能性」と呼びます)に依拠します。将来減算一時差異等が、将来の税金負担額を軽減する効果を有していると見込まれる場合には、繰延税金資産の回収可能性があるものとして、繰延税金資産の計上が認められます。それ以外の場合には、繰延税金資産の回収可能性はないものとして、繰延税金資産を計上することは認められません。
この判断を適切に行うためには、将来の課税所得の十分性やタックスプランニングの存在等が必要となりますが、これらはいずれも将来予測に基づくという不確実さをはらんでおり、慎重な取扱いが必要となります。そのため、実務上は「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(日本公認会計士協会 監査委員会報告第66号)に従い、繰延税金資産の計上可否を判断することになります。委員会報告第66号によれば、繰延税金資産の回収可能性を判断するための要件として「(1)収益力に基づく課税所得の十分性」「(2)タックスプランニングの存在」「(3)将来加算一時差異の十分性」の3つを挙げており、具体的には以下のような手順を踏みます。
また、委員会報告第66号は、将来の会社の収益力(課税所得)を客観的に判断することが実務的に困難な場合も多いため、会社の過去の業績等に基づいて将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性を判断する基準を規定しています。
会社区分 | 取扱い |
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(1)十分な課税所得がある会社 | 繰延税金資産(スケジューリング不能な一時差異に係る繰延税金資産を含む)は、全額回収可能と判断 |
(2)業績は安定しているが、期末における将来減算一時差異を十分に上回るほどの課税所得がない会社 | スケジューリングの結果に基づき計上された繰延税金資産は回収可能性があると判断 |
(3)業績が不安定な会社 | おおむね5年内の課税所得の見積額を限度として、スケジューリングの結果に基づき計上された繰延税金資産は回収可能性があると判断 |
(4)重要な税務上の繰越欠損金がある会社 | 原則として、翌期の課税所得の見積額を限度とし、スケジューリングの結果に基づき計上された繰延税金資産は回収可能性があると判断 例外として、おおむね5年以内の課税所得の見積額を限度とし、スケジューリングの結果に基づき計上された繰延税金資産は回収可能性があると判断(※) |
(5)債務超過の会社 ※過去連続して重要な税務上の欠損金を計上している会社も含む |
繰延税金資産は回収可能性はないものと判断 |
※重要な税務上の繰越欠損金が、事業のリストラクチャリング等による非経常的な特別な原因で発生したものであり、それを除けば課税所得を毎期計上しているような会社が該当します。
近年における新たな会計基準の整備により、税務会計と企業会計の乖離が顕著であり、繰延税金資産の計上額が財務諸表に重要な影響を与えるようになっています。また、繰延税金資産は、会社法上配当制限の定めがありません。そのため、繰延税金資産については、その回収可能性を十分に検討する必要があり、将来の税金負担額を軽減する効果を有していると見込まれなくなった場合、適時に過大となった金額を取り崩す必要があります。
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